◆第三話 「〜spring〜Jと桜」

◇〜spring〜Jと桜◇


今は春

肌寒い風が残る4月

山や街では桜が咲き始めて盛りを迎えた

ベランダから見える小さな公園の桜の木も淡い色の花弁をまとい、ひらひらと風に花びらを乗せて今を、春を謳っていた


***




寝室で眠っていたジェットは朝日に照らされ目を覚ました

「…朝か」

ギルモア博士のあつらえたマンションで暮らし始めてから数週間。すっかり体になじんだベッドの上でジェットは軽く伸びをした

「んー…っ…まぶし」

カーテンから漏れる光に目を細め横で寝るJを見る。小さく寝息をたてて毛布を握りしめ時々むず痒そうに顔を毛布にこすった

「ん〜…」

「ふふ……−ん?」

ジェットは小さく笑うとジョーを探した。見回してもベッドには、寝室にはいなかった

「…早起きだな」

ジェットはスルリと音もなくベッドから立ち上がり静かに廊下に出てパジャマのままリビングへ向かった



カーテンが開いた窓からリビングへ太陽の光が差していた。隔たりがないため奥のダイニングまで照らされキッチン右横の明かりとりの小窓からも光が差していた

キッチンからは換気扇の動く音とフライパンで卵を焼く音、油で鶏を揚げる音、そして小さな鼻歌が聞こえた

「〜♪」

廊下からペタペタと足音がリビングへ近づく。ジェットだった

「ジョー…おはよ」

「あ、おはよう」

エプロン姿でキッチンに立っていたジョーは歩み寄るジェットに挨拶を返し一日目から続く日課のキスをした

「チュ…1人で弁当作るつもりだったのか?俺も起こせよな…」

「ごめん、あんまり寝顔が可愛かったから、もったいなくて…それにお弁当の下準備は昨日済ませてたから1人でも大丈夫」

今日は数日前から決めていたお花見の日

車を借りて桜の名所へ行く予定を2人で組んでいた

「お弁当は僕がこのまま作るよ。ジェットはJの着替えと荷物揃えて」

「あ…そか、J…」

ジェットはJのことを思い出すとパッとジョーから離れさっさと寝室へ戻っていった

「…ふ……さて唐揚げは…と」

ジョーは寂しそうな、でもまぁいっかといった顔でおかずを詰めたお弁当をバスケットに入れていった





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