「Kiss me &…」
◇…kiss me &…◇
「キスしたい。」
鉄条から発せられた一言。その言葉の意味を理解するまで、電球をつけ変えていた毒蛾の動きが止まった。
***
昨日
十字目メンバー5人はテーブルを囲み新聞の折り込みチラシを広げて真剣な面持ちで何やら相談をしていた。
チラシの内容は『土曜市―今週の大特価品―』から始まり各品の写真と値段が記載されている。ところどころ赤いマーカーで「必須」の文字が書かれ品の写真に矢印が引かれていた。
そして今日は金曜日。貧困生活をする5人にとって節約は基本中の基本。安い物を効率よく買うためチラシのチェックは欠かせないものだった。
「やっぱり肉が食べたいなぁ…」
豚が指をくわえながらチラシを見る。
「いや、とりあえず生活必需品だろう…あと食品なら長持ちするものがいい…」
豚の提案に的確に返したのは佐治。
「必要なもので今回安いのは…石鹸、カップめん、醤油…」
薄暗い部屋の中。意見交換しながら明日に向け買うものを決めていった。
「…買う物は決まった。しかし買い物リストのほとんどは品数が限定されているものだな…」
佐治が苦そうな顔でつぶやくと隣の牛島田が確認するように
「開店一時間前には店の前で待って開店と同時にそれぞれ別々に動いて目的の品を速やかに獲得。それしかあるまいな」
と明日の動きを振り返った。
「"節約スタンプカード"にスタンプがあと4つ付けば500N分の商品券が貰えるから、エコバッグは必ず持参な!」
豚が人数分のくたびれた布袋をテーブルにまとめて乗せた。
「…主婦歴の長いオバサンには特に注意した方がいい…甘く見ると後悔する…」
毒蛾が静かに話し終えると一応に頷き皆ガタガタと席を外し始めた。気がつくと太陽はすっかり暮れ部屋はほぼ真っ暗に近かった。
「足元見えないな…灯りつけるぞ」
そう言って鉄条が天井からつるされた紐を引っ張る
『カチン…バチッ!!』
一瞬明かりがついてフィラメントのはぜる音がして消えた。
「あー切れたね。蝋燭、蝋燭…」
そう言うと豚は蝋燭を探しマッチで火を付けた。
「…毒蛾。明日、変えといてくれ」
「わかった」
毒蛾は体質上人混みには近づけないので留守番が相場だった
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