「隻眼」
◆…隻眼…◆
オレ(毒蛾)が単独でシャイターンから奪った修復系のケムリ。
あれを使えば今回負った傷だけじゃなくて、たとえば、鉄条の右目も治せるかもしれない。昔、俺をかばって負った傷
治してやりたいと思った。
両目に、オレを映して欲しい。そう 思ったんだ…
でも、
鉄条の右目は治らなかった。治さなかったのかもしれない…
***
夜
薄明かりの部屋の中、ボスに会いに行く前に残りの内職をみんなで片付けながらオレは鉄条に聞いた
「…右目、治らなかったのか」
「ん?…ああ」
鉄条は優しく笑って答える
「これは俺がお前を守った証だから…このままでいいんだ」
「…でも」
「左目だけで生きてきたからな、これに慣れちまった」
「……」
鉄条はふっと自分の右目に触れた
「この傷に触る度、誓うんだ…お前を守り続けるって」
「鉄条…」
優しい鉄条…
泣きたくなった
我慢したけど、結局泣いた
鉄条はボロのタオルを差し出しながら、困った顔をして涙を拭うオレに話しかけた
「毒蛾…あのな、お前がシャイターンのとこに乗り込んだって聞いたとき…俺、潔く死ねばよかったって思ったんだ」
「―なっ!」
オレは怒りに近い気持ちで鉄条を見返した
「お前は確かに強い。そこらの魔法使いなんて敵じゃない…でも…それでも、心配なもんは心配なんだ。」
鉄条はオレの肩を抱きよせて囁いた
「頼むから…もう無茶しないでくれ…」
鉄条の腕に力が入って、オレは少しきつかった。
「ごめ……」
見上げようとした時、上からポロッと雫が落ちてきてオレの前髪を少し濡らした
「!」
見ると鉄条が泣いていた
「毒蛾…無事でよかった…」
「―…っ」
オレは苦しい胸を押さえて
精いっぱいの勇気で
「……………スキ」
小さく小さく、つぶやいた
◇…END…◇
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