「無限階段」


何もない闇の中で

靴音があたりに響いていた


…ツン…カツン…


真っ暗な空間。

その中で俺は、ただひたすら目の前の階段を登り続ける



カツン…カツン…



「……」

靴音と吐息で震える空気とかすかな衣擦れ

それ以外は何も聞こえない


目の前にあるのは広い螺旋階段。

円柱に手をついて壁を伝うように階段を登り続ける


繰り返し繰り返し終わらない螺旋階段


***




いつもみたいに今日も俺は彼の部屋に居座って温もりをねだる

「アルベルト…好き…」

「……」

「なぁ……抱いてくれよ…」

「…ジェット」

「………ッ」

繰り返し繰り返し

終わらない関係

電気を消した真っ暗な部屋

熱っぽく漏れる吐息と肌のこすれる音

そして不規則に軋むベッドの音だけが部屋に響いていた

「…ッ…ふ…こんな時でも…忘れないんだ…アンタ」

「……?」

アルベルトの首から下がったシルバーチェーン

それに通されたすすけた指輪

指で弾いたら小さく金属音がした

「……形見…だもんなぁ」

「……」

「…なぁ…こんな時くらいさ…あたま、空っぽにしてくれよ」

「…すまん」

アルベルトの愛した人はもういない

でも彼の心に住み続けてる

そんな彼を俺は好きになった

『かまわない』って思ったから


***


「…そういや、昨日、夢を見たぜ」

「…夢?」


情事の後


ベッドに座ってGパン一枚でタバコを吸っていた時、俺は思い出した

「階段を登る夢なんだけどさ」

「…」

隣に座っていたアルベルトは興味を持ったのか、着たシャツのボタンを留めながら俺に振り向いた

「周りは真っ黒で、でも階段だけは見えんの。で、登るんだけどよ」

「…ふむ」

「…先が見えねぇんだ。その階段」

「……」

アルベルトは目線を下げて自分なりに俺の夢を解釈しているようだった

「ずっと登ってさ、静かだから靴音が辺りに響くんだ」

「後には…戻れないのか」

「ん、振り向いたりもしてみんだけど、やっぱり階段があるだけ。それに、なんとなく戻りたくねぇなぁって思うわけ。」

「…そうか」

「ずーっと登っててさ、んで『俺は本当に登ってんのかなぁ』って思いだすんだ」

「景色が変わらないからか…」

「そう。…でも、そしたら」

「…?」

俺は見た夢で一番印象深かったところを話した

アルベルトは興味深げに俺の話を聞いているみたいで話の続きを待っていた

「何か、見えたのか」

「登ってったら、一匹のカエルがいたんだ」

「…カエル」

「ちょっとデカいカエルでさぁ…俺の拳くらいあったかな…で、王冠かぶってんの」

「……」

「…俺は気にしないで横切ろうとすんだけど、そのカエルがさ、だみ声で言うんだ」


『…よぉ兄ちゃん』

『この階段に、終わりなんてねぇぜ。兄ちゃん、それでも登んのかい?』


「…ってさ、」

「……」

「俺は『かまわねぇさ』ってまた登り続けるんだ」

「………―」


結局

「…あれ…どうしたんだよ…アルベルト」

目が覚めるまで登っていた、終わらない階段

「…どっか痛ぇの?」

登っていたとき俺は、

「…お前が…そんな顔するからだ」

「…?」

(…俺…泣いてる…のか)

悲しくて、苦しくて

「…すまない、ジェット」

でも少しでも近づきたくて

「……」

終わらないと、届かないと

「かまわ…ねぇ…よ……っ…うっ」

分かっているのに…


悲しいことは泣けば少しずつ忘れる

「………ぐす……」

「………」

きっと彼は、泣かなかったんだ

「……落ち着いたか」

「……」

その胸に、とどめたんだ

「…これからも……階段を登るのか…ジェット…」

「…ぅん」

「……」

傍にいられるだけで幸せ。嫌われていないならそれでいい

そんなん、全部嘘だ。

誰よりも何よりも俺を愛して欲しい

俺だけを見て欲しい

「あきらめねぇぞ…こんにゃろ…」

「…いつか階段も終わるさ」

「…!」

「…頑張るから…」


優しい

優しい人

「……ぅん」

嬉しいような悔しいような

入り混じったマーブル模様の気持ち

その中で

「……アルベルト」

ただ一つ変わらないのは

「…ん?」

あなたを好きでいる気持ち

「…何でもない」

「む…気になるだろうが」

「何でもねぇよ!ちょっぶはっくすぐてぇ!」

「…言うまでくすぐってやるっ」

「にゃははははっ」



あなたを大切にしたい気持ち






終わり


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