「The snow flake」
…Merry Christmas…In the Cyborg's
『・**THE SNOW FLAKE**・』
◇◇◇
雪が降る。夢みたいに白く、世界を染めていく
僕たちの息は白くならない
時間を止められた人間だから
◇◇◇
日本の街
とあるデパートの屋上で手すりに身を託して僕たちは立っていた
「はぁ…買い物につき合うのは楽じゃねぇな」
深くため息をついてそうごちたのは002だった。クリスマスパーティーに向け買い物に来ていたが003の服選びや006の食材選びが長引き荷物持ちとして同行した僕(009)と002はすっかり呆れてデパートの屋上に逃げてきたのだ
「まぁ仕方ないよ」
「……だな」
諦めたようにフッと息を吐くと002は空を見上げた。数時間前から降り出した雪が静かに世界を染める
「009、今年はWhiteXmasだな」
彼は僕に言った。彼は隣に立つ僕の方を向かず雪をもたらす空一面の雲と地上に広がる灯りのつき始めた街並みを眺めていた
「…東京ではちょっと珍しいかな雪がXmasに降るのって…」
僕にはゆっくりと白くなっていく世界がとても綺麗に見えた。彼にはどう映っているのだろうか…
「NYは12月半ばには降り始める…寒くて路地裏で凍えていたのを覚えてる…」
「…002」
僕たちはその感覚を二度と味わえない事を知っていた。雪の冷たさを認知出来ても僕たちの今のカラダには寒さはほぼ無意味だった。
静かに降る雪は彼の高い鼻にうっすらと積もり軽く頭を振ると滑り落ちた
「ふっ…冷た…」
真っ白く成りつつある世界に彼の白人特有の肌の白さが溶ける。逆に鮮やかな長い赤毛は際立って見えた。綺麗だと素直に思った
「…002は里帰りしないの?」
彼は僕を見た。琥珀色の透き通る瞳に僕が映った
「帰ったよ」
彼は僕から目線を外した。怒ったわけではなくただ目線を外した。その眼は雪景色も街並みも見ていないはるか、彼方のなにか過去か未来を見ているようだった
「一年は早いな」
「…うん」
少しの沈黙の後
「…悲しく…ねぇか」
「えっ…?」
僕は彼の突然の質問に少し驚いた。答えるのに少しかかったが、彼は僕の方を向いて僕の答えを黙って待っていた
「……悲しくはないよ…どうして?」
僕は自分の意見を答えて必然的に質問を返した。理由を知りたかった。彼はしばらく黙ってまた遠くを見つめて静かに話し始めた
「…このカラダになってから知り合った奴がいる…ジミーってんだ」
「……」
「…そいつは俺のする英雄伝を聞いては目を輝かせて格好いい!!すごいなって、言うんだ…ヒーローに憧れる…まだ年端もいかねぇ…ちっこい子どもだった」
「……」
僕は聞くべきか迷った。でも―
「…その、少年は今、どうしてるの?」
知りたくて、聞いた。
彼は肩をすくめて軽く笑い答えた
「…今は俺より年上さ。社会人になって母親と自分の家族と暮らしてる…」
「……」
「里帰りの時に街で見かけたんだけどさ…声かけられなかった…当然、だよな」
僕は黙って彼の言葉を聞いた
「……本当ならさ、」
彼はフゥッと息をはきながら上を見上げて、続けた
「…本当なら…俺は50歳以上年くって、お前と何十歳も離れてて子供も孫だっていたかもしれねぇな…ハハ」
彼のかわいた笑いは自分に対するもののようだった。僕は黙って見ていた。彼の表情が憂いへと変わる様を。
「俺たちは…おいてけぼりなんだ…」
僕は言いたかった。だから、言った。
「――でも」
僕は空を見上げるジェットの顔を見た
「…もし、君が人間だったら…僕は今の君に会うことはなかった…」
ジェットが僕の方へ向く
「同い年の君と話せて…うれしいよ」
僕はにっこり笑った。大丈夫だよ、と思いを込めて
「……ふっ」
ジェットも苦そうに笑ってた。まぁいいかって言ってるみたいだった
◇◇◇
…雪が降る。夢みたいに真っ白く、世界を染めてゆく
…僕たちをおいて、世界が変わって行く…
それは悲しいことなのか、悲しくないことなのか
本当はわからないんだ。僕たちでさえ…
今はただ、この白い世界を眺めていよう
変わりゆく未来を、僕たちのあしたを…
**END**
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