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『死神と不死鳥』
何百年も昔、神は人と暮らしていました。調和のとれた
完璧な世界。名をシャングリラといいました。
神様の中には嫌われ者もいました。死をもたらす神も、そのひとりでした。
でも死神はほかの神と同じように絶対に必要な存在であり欠かすことの出来ないものでした。
同等に愛し愛されるべきでしたが死神は誰も好きになれなくなっていました。
恋をしても深く関わることはしません。自分が関わると死なせてしまうと分かっていたからです。
そんなある日、死神は不死鳥に出逢いました。
炎の中から繰り返し生まれ出る再生の象徴。美しい赤い羽根と暖かい体。
死神は不死鳥に恋をしました。まるで必然の様に…
不死鳥は皆に愛されていました。1人だけのものには、なれませんでした。死神は、ただ不死鳥の傍にいたくて、それだけでいいと思いました。
けれど不死鳥を好いていた人々は死神を恐れました。不死鳥を殺すのではないか不死鳥を自分たちから奪うのではないかと思ったのです。
死神は人々の輪よりもずっと、ずっと外から見つめることしかできませんでした。それでも不死鳥を見ていられることのが死神の幸せでした。
‡‡‡
不死鳥は死神が好きでした。遠くに見える優しい眼が大好きでした。死神だけのものになりたいと思い不死鳥は周りの言葉に退いて自分から近づきその思いを打ち明けました。
でも死神は不死鳥を傷つけたくなくて、過去の人々にしてきたように、また関わることを拒んでしまいました。
不死鳥は愛されなかったことに絶望して、その心は病んでゆき、とうとう不死鳥ではなくなってしまいました。
もげた羽根は天を舞って炎となり燃え尽きて消えました。
そして、不死鳥は死んでしまいました。
‡‡‡
人々は悲しみました。そして人々の強い希望から不死鳥の体は死神によって"死"を取り除かれ腐ることも風化することもなく、その姿のままで在り続けました。
死神は泣きました。たくさんたくさん泣きました。愛していると言えなかった。愛していると言いたかった。水晶の棺の中で眠る様に変わらず動かない不死鳥の姿を見ながら何度も泣いて何年も後悔しました。
そして死神は決意しました。『君が戻って来てくれるなら、もう一度逢えるなら、この命を捧げよう。』と、死神は自分を殺しました。不死鳥の帰りを強く願いながら…
不死鳥は帰って来ませんでした。
死神も戻ることはありませんでした。
‡‡‡
世界は死神を失ったことで人々は死ぬことが出来ず、病や怪我の苦しみに終わりがなくなり増え続ける人々によって大規模な飢饉に見舞われました。
苦悩したあげく神は人に『寿命』を与えました。誰がいつ死ぬか分からない恐怖を人々は背負うことになりました。シャングリラは崩壊し人々は地へ神々は天へそれぞれ移住することにしました。
人々は不死鳥と死神を哀れんで、来世で一緒になれるように2人の手を赤いリボンで結び棺に納めて埋めました。
何年も何年も経って、不死鳥と死神は次第に人々に忘れ去られてゆき、一部の人だけが語り継いで守ってゆきました。
棺の埋められた土地は小さな森になりました。
更に数年、数十年、数百年
時が経つにつれ、森は大きな森になりました。
‡‡‡
そして数百年後のある日。
その森に1人の少年がやって来ました。森の横に走る道をはずれて大きな木々がそびえ立つ森の奥の奥で
少年は見つけました。
「こんなところに墓標があるなんて…」
「それは死神と不死鳥のお墓だよ坊や」
少年が出会ったのは森の番人の息子でした。
「死神と不死鳥?」
「ああ、聞きたいかい?」
「うん!教えて!」
にこやかに問う銀髪の青年に赤毛の少年は目を輝かせて聞きました。
2人の手に何かを巻き付けたような赤い痣があったのは、また別のお話…
‡end‡
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