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002は…ジェットは、治療を終えて自分の部屋に戻っていた。

今はベッドに横になっているだろう…僕は部屋のドアをノックした。

「ジェット、入るよ」

返事はない。

ゆっくりドアを開けてひょこっと覗いてみる。

部屋は静かだった。

暗くなり始めた空はまだ少し赤みがかっていて窓ごしに部屋を夕焼け色に染める。

窓側にあるベッドも例外ではなかった。

「…寝てるのか」

ベッドで寝息をたてる彼の髪は夕焼けでより一層赤く、より一層…綺麗に見えた。

閉じられたまぶた。縁取る睫(まつげ)さえ透き通って見える。

「…ジェット…」

僕は眠る彼にキスした。

背徳的な罪の味がした。


***


「んー…ん?…なんだ…いたのか」

キスして数秒後ジェットは目を覚ました。

僕はちょっと焦った。

「ごめん、起こしちゃったね…」

ジェットは気にしてない様子で周囲を見回した。

「別に、もう夕方か…どれくらい寝てたんだ…?」

「3、4時間くらいかな」

「ふぅん…」

ややあってジェットは上半身をゆっくり起こした。

「…痛ッ」

わき腹を押さえて顔を歪め声を漏らす。

「大丈夫!?」

僕はジェットを軽く支えた

「なんでもねぇよ、こんなの」

ジェットは気丈に振る舞って見せる。それが返って僕を不安にさせた。

「…ジェット…いつ、撃たれたの」

「……さぁな」

僕は薄々気づいていた。

ジェットが撃たれたのは―

「…僕を助けたときだよね…それ」

「……」

「僕を引っ張り上げる前…敵はレーザービームを撃ってた…僕に当たらなかったのは君が代わりに的になっ…ぅ」

ジェットは僕の口を手でふさいだ。

「言うな」

「っ…だって!」

「泣かれたって困る」

僕は自分が泣いていることに言われるまで気づかなかった。

「…ごめん、僕のせいで…」

怪我させた傷つけた苦しめた

涙で目の前が滲んで見えなくなった。

「はぁ……なぁジョー、俺が死んでるように見えるか?」

ジェットの質問に僕は涙を拭いながら首を振って答えた。

「生きてるだろ?な?」

「…ぅん」

「ならそれでいいじゃねぇかょ」

「………」

「生きてりゃいい…俺はそう思うぜ」

ジェットは結局最後まで僕を責めることはなかった。

優しいジェット

大切な、大切な僕の愛しいひと


「ジェット、抱きしめていい?」

「え」

「君が生きてるんだって、もっと感じたいんだ」

僕のわがままにジェットはちょっと考えて、

「あんま…キツくすんなよ…」

ムスッとしてあきらめたように許してくれた。

力を入れたら折れてしまいそうな細い体

長い赤毛を指ですいて頬を寄せて滑らかな肌を味わった。


飛び立ってしまえばもう手は届かない。君と僕の遠すぎる距離


「…やっぱり僕は、飛ぶのは不安だな…ジェットは勇気があるんだね…」

ぽつりと言った言葉にジェットはフッと鼻で笑った。

「考えすぎ、そーゆーことじゃねぇんだよ」

「…教えて…どうして僕が…僕たちがいると不安じゃないの?…僕たちは地上で待つことしか出来ない。飛んでいる君に何もできないのに…」

抱きしめる腕をゆるめてジェットへ顔を向けて僕は答えを待った。

「…例え自由に飛べたって帰る場所がなきゃ…翼を休める"とまり木"がなきゃ…苦しいだけだ」

「…」

「ただいまって、そう言える場所があるから俺は飛び続けられるんだぜ…」


待っていることにこそ意味がある

帰る場所がある幸せ


なら、

『…僕だけが、君の"とまり木"になれないかな』


そう言いたかったけど

君がニコッて笑うから

「ただいま、ジョー…」

君がそう言ってくれたから、言えず仕舞で

「…おかえり」


そう返すのが精一杯だった。



終わり

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