「幸福と不安のあいだ」



彼の手は冷たくて

温まらない


その手は鉄で出来ていて

でも

彼は暖かいはずで…


だってそうだろう

彼がいるだけで

こんなに暖かくなる


1人がこんなに寒いのは

彼がいないからだ


***


「―っと…なんだ、こんな夜中に」

「へ?」

気がつけば俺は004の部屋の前に突っ立っていた

そこをドアを開けて廊下に出ようとした004に見つかってしまったのだ

「……あ…あー…さ、寒くて」

…だめだ、言い訳になってない

004はあからさまに顔をしかめた

「あぁ?今は夏だぞ、寝ぼけてるのか?明日は早いんだぞ、起きれるのか?」

「………」

なにも言い返せない

だって自分でも

「わ…わからなくて…」

「…?…まぁいい、入りたいなら好きにしろ、荒らすなよ」

「あ、どこいくんだよ」

「トイレ。」


「…ちなみに…どっち?」

「聞くなアホ」

「…ぃて」

軽くデコピンされて

それが何だかこそばゆかった



「……おじゃましまーす」

(…って誰もいないか)



004の使っている部屋はまるで生活感がなくて

ベッドやクローゼット以外のもの…

ライトスタンドや棚の本は一切触っていないらしく、薄らホコリを被り煤(すす)けていた

最初から誰もいないかのような部屋…

またこの戦いが終われば荷造りをしてすぐ祖国へ帰るのだろう…

いつでも出て行けそうな部屋だった

「…………」


俺は照明のスイッチに手を伸ばした





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