帰る場所を求めるのは不可能に近い。この広い宇宙を飛び回ってる奴はほとんどがそう言って、諦めている。俺もその一人だった。
『pinky promise』
少し仕事が長引いて、というかちょっと俺がしくじった、ちょっとな。足を怪我しちまったからなかなか船までたどり着かなかったうえに、通信機が壊れちまってパー。次の日の朝、やっとの思いで船に着いたら、カブがパソコン抱えてソファの上で寝てた。ソファの上じゃ寝づらいだろうと思って、そっと抱き上げてやる。途端に、ミシッと足が軋む感覚。
「いってぇ…骨にヒビでもはいってんのか、これ…」
それでも大したことはないから、カブを抱えて部屋に運んでやる。その途中で、カブの目が少し赤く腫れているのに気付いた。まさか、泣いてたのか?そういえば、昨日仕事に向かう前に、朝までには帰るって言ったことを思い出した。心配でもしてたのか、こいつ。
部屋に入り、そっとベッドに横たえてやった。毛布をかけてやって、ほっと一息つく。
「お前の寝顔、力抜けるんだよ、なんか…」
一人でそう呟いて、そっと目元を撫でる。すると、ぴくりと目蓋が動いて、そっと開いた。ぼんやりとした大きな瞳がゆれる。
「あ、悪ぃ、起こしちまったな」
「ん…?J兄ちゃん…?」
大きな蒼い瞳が、俺をとらえる。その瞬間、カブは弾かれたように起き上がると、俺に抱きついてきた。
「うおっ、おい、なんだよ?」
「う、うぅ、良かった…帰ってこないのかと、思っ…」
「なんだそれ…当たり前だろ…まさかマジで泣いてたのか?」
「ぼ、僕だって心配するよっ!朝までには帰ってくるって、言ったから…通信機も反応ないし…!」
まくしたてる声が、涙声に変わる。カブがここまで取り乱してんのを始めて見た。何をすればいいのか分からなくて、でもカブがあまりにも泣くもんだから、とりあえず顔を上げさせ、ぐしゃぐしゃの顔を袖で拭ってやる。
「いいから泣きやめって、もう帰ってきたんだから」
「う、うん…分かった…。ねぇJ兄ちゃん」
「お?」
「どこにも行かないでね、絶対に帰ってきてね」
「あぁ、分かった。なら、これやるか」
カブの手を取って、小指をひっかける。カブはきょとんとした顔で俺を見上げた。
「これ何?」
「知らねぇのか、"指切り"ってんだ」
「ゆびきり?」
「俺も、どっかの星で教えてもらったんだけどな。約束する時にやるんだってよ」
「そうなんだ!」
「んじゃ、約束な。俺は絶対に帰ってくる。どこにも行かねぇ」
「じゃ、僕も約束!僕はずっと待ってる、どこにも行かずに待ってる!」
「おう、約束だ」
引っかけた小指を上下にゆらして、俺達は約束を交わした。帰る場所と、帰る理由が、これで出来た。
『pinky promise』 END
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