「アーアー、宙賊ダ!」
「チッ、めんどくせぇ奴に捕まっちまったな」
「J兄ちゃん、宙賊って?」
「なんだお前、初めて聞いたのか?宙賊ってのは宇宙のあちこち飛び回って一般の船から食糧やら燃料、売れそうな生き物を全部掻っ払って行くクソ野郎集団だ。お前みたいな人狼のガキはあっという間に拐われっぞ、カブ」

 JJの言葉を聞き、カブはゾッと背筋を震わせた。再び、船が大きく揺れる。

「ヒャヒャヒャ!入ってくるヨ!」
「…仕方ねぇ。ドギィ、てめぇも戦え」

 渋々、といった様子で、JJは落ちていたビームサーベルを投げ渡した。ドギィは無機質な銀に光る筒状のそれを器用にクルクルと回す。ふと、ドギィは思い出したようにだぼついたシャツを捲り上げた。ズボンに挟まれていたのは、もう一本のビームサーベルだ。

「てめぇまだ持ってやがったのか!」
「誰も持って無いなンて言ってなァい」
「J兄ちゃん!ドアが!」

 カブが指差した先のドアの中心が、徐々にオレンジに色付いていく。熱で溶かされているのだ。そして、溶かされきったドアの中心にできた穴から、無数のビームが撃ち込まれてきた。

「っ!」

 JJはカブを抱え、ソファの脇に転がり込む。ドギィも同じくソファに身を隠し、相手の発砲が止まるのを待った。

「おい、ドギィ」
「ンン?」
「出来るだけ殺すんじゃねぇぞ、全員の首に賞金がかかってんだからな」

 銃をホリダーから取り出しリロードしながら、JJはドギィに釘をさす。ドギィは小さく笑って頷いた。

「努力はするヨ!」
「どうだか…。おいカブ、お前は隠れとけよ」
「う、うん」

 その時、砲撃が止んだ。その隙に、ドギィとJJは立ち上がる。あっという間に、JJはそこにいた3人の宙賊の太ももに弾を撃ち込んだ。悲鳴をあげながらその3人は倒れ、破られたドアから更に2人が室内へ入ってくる。ドアの向こうにも多くの敵が見えた。

(30人くらいだな…)

 船を乗っ取られてたまるかと、JJは引き金を引いた。







(し、静かになった…)

 数十分は続いていた銃撃戦。JJとドギィの2人は宙賊を追って広い船内を駆け、そして宙賊も目当ての食料や燃料などを奪いつつ、船内にいる者は皆殺しにしようと走り回っているのだろう。最初の銃撃戦の舞台となったこの部屋には今は誰もいない。カブはJJの言われた通りにソファの影に隠れていたのだが、ソファは銃弾により焼け焦げ、あちこちに穴があいていた。ソファ以外に身を隠す物がないこの開けた部屋にこのままいるよりはどこか個室に入った方が隠れられるだろうと、カブは恐る恐る立ち上がった。きょろきょろと辺りを見回し、耳を立てて警戒する。

 誰にも見つかる事なく物置部屋に辿り着いたカブは、そろりとその部屋に入りドアを閉めた。中はホコリ臭く、元より嗅覚の鋭いカブは顔をしかめ鼻をつまむ。大きめの段ボールの影に身を隠そうとした、その時だった。

「なぁにしてんだ?坊主」
「……っ!」

 驚き振り向いた瞬間、視界が真っ白になった。カブの軽い体は簡単にふき飛ばされ、頬の痛みで殴られたのだと悟る。見上げれば、棍棒を肩に担いだ宙賊の男が自分を見下ろしていた。

「おぉ?獣人系のガキか、売れば良い額になるな…。あの2人から逃げてここに隠れてただけなのにラッキーだったぜ。…オラ、さっさと来い!」
「や、嫌だ…離して!」

 腕を掴まれ、カブは必死に抵抗する。だが小さな体で抵抗しても、大男の力の前では無力だった。

「暴れんじゃねぇ!」

 ダンッ、と壁に叩きつけられ、大きな手で首を絞められる。確実に気道が狭くなる中、カブは必死に声を絞り出した。

「た、たすけて…っ」
「ハッ!助けなんか来る訳な、」

────ヴォンッ

 一瞬、何か光るものが大男とカブの視界に入り込む。何かを振り下ろす音がしたと思った、次の瞬間、カブの首を掴んでいた大男の腕が、落ちた。

「…え?」

 腕を斬り落とされたのだと言うことに、大男はすぐに気付かなかった。輪切りにされた部分から噴き出す血を見て、やっとその事実を理解する。凄まじい悲鳴をあげながら膝をつく男の背後で、尚も光る2本の刃を、カブは見た。


「その子は優しい優しい。手ェだす奴は、殺シちャえ」

────ブシュッ










「ったく…手間かけさせやがって」

 宙賊の最後の1人を縛り上げながら、JJは悪態を吐いた。煙草に火をつけ、ぐるりと部屋を見渡す。どっかりと腰を下ろしたソファを見て、その影で身を隠しているはずの、カブの事を思い出す。

(……どこ行った?)

 宙賊に聞いたところ、誰もカブの姿を見ていないと言う。探しに行こうかと腰をあげた時、向こうからパタパタと足音が近付いてきた。

「J兄ちゃん!」
「カブ!?」

 抱き付いてきたカブに血がついているのを見て、JJは驚いた。怪我でもしたのかと全身を見るが、どこにも傷は見当たらない。

「お前、その血どうした?」
「………これは…ドギィさんが…」

 少し震える声で言いながら、カブは自分が来た方向を指差した。見ると、いつの間に現れたのか、ドギィがふらふらと体を揺らしながら立っている。その顔には血が飛んでいた。

「…てめぇ何かしたのか」
「ヒャヒャヒャッ!カブ狙われた。だからソイツ、殺シちゃッたァ」

 ニタリ、と彼の口元が笑う。カブは何も言わず、小さく震える手でJJに強くしがみついた。

 カブは知ってしまった。躊躇うことなく切断された首を、鮮血が噴き出す断面を、今まで体内を流れていた血の温かさを。そして、目の前にいる男の淀んだ目と、狂気を。



『ハロー、侵入者!』 END


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