やっぱり敵だった、と後悔しても遅かった。熱を帯びた刃が喉元に近付く。そこでカブは、この広い宇宙で唯一自分を助けてくれるであろう人物の名を咄嗟に叫んだ。

「J兄ちゃん…っ!!」


─────ドカッ

 間一髪、まさにギリギリだった。カブの上から、男は吹っ飛ぶように退かされた。恐怖のあまりに閉じていた目を開けると、まるでカブの悲鳴に呼ばれたかのようなタイミングで登場したJJの姿があった。が、カブの背筋を再び悪寒が舐めた。JJの表情が、不機嫌そのものだったからだ。
 JJは何も言わず、鳩尾を蹴り上げられた為にうずくまる男に近付いた。胸ぐらを掴み顔を上げさせた刹那、頬に容赦ない拳がめり込んだ。続けて何発かの拳が全て顔面に浴びせられ、男の鼻が折れたのか、鼻血が床に飛び散る音で、カブはハッと我にかえる。

「J兄ちゃん!」

 ピタ、とJJの振り上げられた拳が止まる。そのまま両手で男の胸ぐらを掴み上げ、ダンッと壁に叩き付けた。

「てめぇ…俺の船で何やってる」
「ヒャヒャッ、アンタは相変わらず容赦無いなァ」
「こっちは質問してんだ」
「ンン?あァ、オレの船、燃料切れちャッたからサ。このひろーい宇宙を漂ッてたのヨ!そしたらこの船見つけちゃッて、チョット助けて貰おッかなァッテ、ヒャヒャヒャッ」
「で、その壊れたてめぇの船はどこだ」
「決まッてンジャン?ちゃあンと格納庫に入れたヨ」

 その言葉を聞き、JJはパッと手を離した。支えを失った男の体はドサリと床に崩れ落ちる。JJは何も言わず小型の船を停めるための格納庫へと走っていき、男とカブが、その場に残された。

「ンー…アー、ヒャヒャッ、痛いなァ…」

 男は床に仰向けで倒れたまま、鼻血を手で拭った。ビームサーベルが遠くに落ちているのを確認し、カブは男に近付く。

「ねぇ…大丈夫?」
「ンン?ア!あやしい奴だ」
「僕は怪しくないってば…。鼻血止まった?上向いてたら鼻血が脳に流れちゃうよ、起きて。…はい、これで拭いていいよ」

 タオルを手渡し、カブは男の隣に腰を下ろした。受け取ったタオルで鼻を押さえながら、その男はカブを見た。

「アンタだァれ?」
「僕はカブ」
「カブ、カブは優しい優しい。アノ人とは大違い」
「J兄ちゃん、怒ったらすぐに殴るから…。ねぇ、お兄さんは誰なの?」
「オレの名前はアダムズ」
「あれ?さっきはジェームズって言ってなかった?」
「オレは誰でも何でもない。オレはオレ、名前はいらナイ。けど、アノ人はオレのコト、ドギィって呼ぶ」
「ドギィって…犬の事だよね?なんだか呼びづらいなぁ」
「オレは気にしてナイナイ」
「えっと…」

 あんな所でなにしてたの?、という言葉は、荒々しい足音で遮られる。見ると、向こうからJJが戻ってきた。

「こんのクソ犬!俺の船に思いっきり突っ込みやがって!!」

 どうやらプツンと何かが切れたらしく、JJは顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。彼はドギィを殴ろうと拳を振り上げたが、その間にカブが立ち塞がった。

「どけ、カブ」
「やだ!さっきいっぱい殴ったでしょ?やっと鼻血止まったのに、また殴ったらドギィさんが可哀想だよ!」
「ドギィ"さん"?いつの間に仲良くなってんだてめぇら」
「とにかくもう殴っちゃ、」

────ズシン!

 突然、船が大きく揺れた。バランスを崩し倒れかけたカブを抱き止め、JJは船を見渡す。

「なんだ!?」

 窓際に駆け寄り、ドギィは外を確かめる。短く笑い声をあげ、揺れの正体を告げた。


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