「…レイヴ…?」

 それは、レスよりも少し高い同じ声。これは確かに、シープスの声。

「レイヴ…」

 手を伸ばし、シープスは再び名前を呼んだ。レイヴはシープスの手を取り、名前を呼び返す。

「シープス」
「……っ、レイヴ…!」

 がばり、シープスは弾かれたように体を起こしレイヴに抱き付いた。レイヴは突然の事に戸惑い、手持ちぶさたな手を揺らす。

「あぁ良かった…、もう、会えないかと…っ」

 肩を震わせ涙を流しながら、それでもシープスは安堵した様に言った。シープスの様子に、レイヴは恐る恐るだがその背に腕を回す。力を入れすぎ壊してしまわないよう、しっかりと抱き締めた。同じ様に涙を流す事が出来ない自分が憎い。それでも、そんな自分を必要としてくれている人がいる。

「シープス…ただい、ま」

 お帰りなさい、レイヴ。

 笑顔で返された言葉に、レイヴはせめて、と自分が出来る精一杯の笑顔を浮かべた。










 店内は少し暗く、高い天井には大きなシャンデリアが輝いていた。テーブルの間を多くのウェイターが行き交い、席についている多くの客は時折ウェイターを呼び止め、そうでない時には目の前のパートナーと淑やかに会話を交わす。あちらこちらからいかにも高価な匂いが漂うレストランに、一人の男が入店した。中背で黒髪、眼帯のその男を見つけたウェイターは皆、男に頭を下げる。その内の一人が男に近付き、一つのテーブルを示した。すでにテーブルには先客が一人いたが、男は構わず先客の目の前の椅子に腰を下ろす。指を組み肘をついて考え込む様に顔を伏せていた先客の男は、パッと顔を上げ穏やかな笑みを浮かべた。

「おや、早かったね」
「待たせるのは好きでは無い。それとも、まだ考え込んでいたかったか?」
「いや、君と話していた方が楽しい。ところで、さっそく本題なんだが…」

 言いながら、ス、と懐から白い封筒を取り出した。眼帯の男は中身を確認する事無くそれをスーツの内ポケットに滑り込ませる。

「今回はそれで見逃して欲しい。男の身柄はそちらの好きな様にしてもらって構わないよ」
「アレなら今頃、双子と遊んでいるだろう。…生きていればの話だが」
「どうなってもいいさ、私に断りもせず勝手に行動するような人材はこの先どうせ不要になる」
「そろそろ仕掛けてくる時期だろうと思っていたが、まさか単独行動だとはな。どうりでツメが甘すぎた訳だ」

 クク、と笑いながら、眼帯の男は椅子を引き立ち上がった。ポケットから何かを取り出し、座ったままの男にピンと弾いて投げ渡す。それを片手で掴み見てみれば、血痕のついた警察バッヂだった。

「これで此方は5勝0敗だ。いつになったら楽しませてくれる?」

 眼帯の男はそう言い残しドアへと向かう。その途中、悔しさと怒りの籠った怒鳴り声と、ガラスの割れる音が背後で響いた。






 GAME OVER





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