街中で見覚えのある顔の男を殺そうとして、発砲した。が、そこからの記憶はまるで無い。突然、電源が切れたかの様にプツンと目の前が真っ暗になってしまったのだ。そして自分は今、ここに至るまでの記憶は皆無のまま、ベッドサイドの椅子に座り、深い眠りについているレスを見つめている。

「レイヴ、調子はどう?」
「…デリ…」

 車輪を軋ませ、デリが個室に顔を出した。いつもの笑顔を浮かべてはいるが、首にはギブスを付け、車椅子に座っている。レイヴはデリの姿を見て、ぎこちなく頭を下げた。

「ごめんな、さい…」
「ん?あ、これ?良いよ謝らなくてもー、怒ってなんかないよ?」
「け、ど……」
「それよりレイヴの方こそ大丈夫?足とかおかしくない?」
「…だい、じょうぶ」
「それは良かった」

 手を伸ばし、デリはレイヴの頭を撫でる。それでもまだ、どこか申し訳なさそうに眉を寄せているレイヴを見て、デリはため息を吐いた。

「レイヴ、そんな顔じゃあレス君が起きた時に嬉しくないよ?大丈夫、絶対に目を覚ますから」
「…う、ん」
「じゃ、僕はロスティに話があるから行くね。何かおかしな事があったら誰か呼んで?」
「………うん」

 器用に車輪を動かし、デリは立ち去った。部屋には再び2人きりで、起きる気配の無いレスをじっと見つめる。身体中に巻かれた包帯が痛々しい。
 レスを見つめているうちに、ぼんやりと思い出す事があった。暗闇の中、誰かが名前を呼んでくれていた。これが記憶なのか、夢なのかは分からない。が、名前を呼んでいた誰かというのが、レスだったという事は感じていた。

(どうして、俺の事なんか…)

 その時、レスの指がぴくりと動いた。レイヴは椅子から腰を浮かせ、レスの顔を覗き込む。

「……レス…?」
「………ん…」

 眉を潜め、レスは眩しそうに目を開けた。レイヴに気付き、少し笑ってみせる。

「生きてたみたいだな、お互い」
「レス……俺、」
「言っとくけどな」

 レイヴの言葉を遮り、レスが口を開いた。レイヴを見上げ、いつもの嘲笑う様な笑みを浮かべる。

「俺はお前や俺の主人格の為にお前を助けた訳じゃねぇんだよ、自分の為だ。主人格にいつまでもグズられちゃ、俺は心置きなく殺しができねぇんだ。勘違いすんな」

 レスの言葉に、レイヴは眉を寄せた。が、すぐにその表情は穏やかになり、微かな笑みまでみせる。

「レス、」


 ありがとう。


 その言葉に、レスは驚いた様に目を見開いた。が、すぐにフンと鼻で笑う。

「いらねぇよ」

 その言葉でも、レイヴには充分だった。言葉に悪意や刺が無いことは感じ取れる。



「…っつ、」

 唐突に、レスは頭を押さえ眉をしかめた。レイヴは慌ててその顔を覗き込みレスの手首を掴む。

「何か、変?痛、い?」
「いや、大丈夫だ…、すぐに、治まる…っ」

 パシッ、とレイヴの手を払い、レスは頭を抱え唸る。レイヴが誰かを呼ぼうとドアに向かった時、その唸り声が止んだ。

「……レス…?」

 そろそろとベッドに近付き、問い掛ける。その表情は腕に隠れていて見えない。が、ゆっくりと腕がどかされた。

「…レイヴ……」

 その声は、どこか懐かしい気がした。


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