「……っ!?」

 それはあまりにも一瞬の出来事で、周りの人間、果ては首を掴まれたデリ本人でさえその事に気付かなかった。が、気道が確実に狭くなっていくのに気付き、デリは咄嗟にレイヴの手首を掴んだ。勿論、引き離そうとしてもその冷たい腕は微動だにせず、ギリギリと首を絞め続ける。

「…レ、イヴ…っ」

 ミシ、と首の骨が軋む音が聞こえる。窒息するのが先か、首が折れるのが先か。その答えが出る前に、レイヴはデリの身体を放り投げた。いとも容易く吹き飛んだデリは壁に激しく叩き付けられ、ドサリと床に崩れ落ちる。動く気配は無い。

「チッ!」

 すぐに動けなかった自分を責めながら、レスはデリからレイヴへと目線を戻した。デリの事は気掛かりではあるが、今のレイヴに背を向けると、確実に殺られる。

「…任務…、全員、排除…」

 ぶつぶつと呟きながら、レイヴは片足しか無いのにも関わらずしっかりと立ち上がった。レイヴが周囲を見渡すのを見て、レスは周りの人間に叫ぶ。

「お前ら邪魔だ!失せろ!」

 その言葉に、周りの人間は我先にと出口へ群がった。レイヴの視線はレスにとまる。

「目標、発見」
「あぁ、2人きりで楽しもうぜ」
「目標は…排除する」

 次の瞬間、キンッと高い音をたて刃と刃が交わった。レイヴの両手首から覗く刃を見て、レスは眉を寄せる。

「片足のハンデがあっても、ここまでかよ…っ」

 ググ、とレスの刀は簡単に押し返される。なんとか弾き返しても、レイヴは倒れはせずに体を揺らしただけだった。再び飛び込んできたレイヴは目にも止まらぬ早さでレスを切り刻もうと刃を光らせる。レスも刀でそれに応戦するが、攻めを先読みそれを防ぐのが精一杯で、なかなか反撃に出ることが出来ない。それどころか、少しずつおされてしまっていた。体中に大小の切り傷ができ、頬からも一筋血が流れる。

(クソッ…このままだと…)

 先読みが出来ても、体が思考に追い付かなくなってきていた。このままではやられてしまう。レスの胸中に不安と焦りが渦巻いた瞬間、手元の刀が高い音をたて弾き飛ばされた。


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