階段はレスが思っていた程長くはなく、その先にはすぐにドアが見えた。相変わらず何の躊躇もなくドアノブに手を伸ばすデリの手首をレスは掴む。

「流石にここは先に俺が行く」

 レスの言葉に、デリは肩をすくめ一歩下がった。ドアに鍵はかかっていない様だ。いつでも刀が抜けるよう神経を集中し、レスはドアを勢い良く押し開ける。侵入した途端、ドアの一番近くにいた男が叫び声を上げた。

「侵入者だ!!」

 その叫び声に、室内にいる10人ほどの人間がドアを振り向いた。中には銃を構える者もいる。しかし、レスが刀を抜いた時には何故か室内にいる全員の表情が凍りついた。銃を構えていたものは、カシャンッと銃を落としてしまう。彼らの視線が自分よりすこし右側にずれている事に気付き、レスは右側を振り返った。

「やぁ、みんな元気?」

 デリはニコリと笑いながらひらひらと手を振った。誰もデリの問いには答えない。未だデリを見つめ凍りついたままだ。その内の一人が、かくかくと唇を震わせながらも口を開く。

「ど、どうして……デリさんが…」

 この場にいた全員が、口にはしないがその疑問を抱いているようだった。その表情は、どこか怯えている様にも見える。

「今日はね、君達が勝手に持って行っちゃった僕のものを返してもらいに来たんだよ?」
「…か、勝手に?」
「あ、あの人造人間なら、デリさんが貸して下さると…」
「それ、僕から直接聞いたの?」
「………い、え…」
「ふふ、吃驚しちゃうね」

 首を振り、デリはため息を吐く。口元に浮かぶいつもの笑みは、いつの間にか消えていた。

「君達の腐った脳みそじゃ分からなかったかな?」

 レスは、初めてデリに対し悪寒を覚えた。笑うことをやめた彼は、もはや狂人でしかない。そんな彼は、コンクリートに革靴の音を響かせながら機械に近付く。その機械の近くには、沢山のチューブに繋がったレイヴが倒れていた。意識は無いらしく、目を閉じ微動だにしない。

「レス君、今からレイヴを起こすからね。まずは僕がマシンの電源を切って彼からチューブを抜く。勝負はそこからだよ」

 レスは刀を握りしめ、こくりと頷いた。機械を扱った事があるのか、デリは手際よくキーを打ち込んでいく。やがてブゥンと低く音が鳴り、機械の電源が落ちた。デリはレイヴに近づき、傍らに片膝をつく。うなじに差し込まれている一番太いプラグを、慎重に引き抜いた。

「………レイヴ?」

 警戒しながらも、デリは声をかけた。反応はない。

「おかしいな…もしかしたら、」

 デリが顔を上げたその途端だった。レイヴの腕が、デリの首を掴んだ。


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