「デリさん、あの、デリさん?」
あずおずと、組員の一人がデリに声を掛けた。当の本人は座って項垂れ、すっかり夢の世界の住人になっている。デリの肩を叩く事など出来る訳も無く組員が困惑していると、隣で目を閉じあぐらをかいていたレスが口を開いた。
「おい、呼ばれてるぞ」
刀の柄でデリの肩を押しながら言う。ゆっくりと、デリは顔を上げた。
「……んー………なに?」
「デリさん、お休み中の所を申し訳ありません。ミミックさんから目的地の情報が届いたのですが、この車両をそこへ向かわせて宜しいでしょうか?」
「ん、いいよ。どれ位で着くの?」
「目的地である研究所はZONEー14ですので、30分はかかります」
「んー、分かった。ありがとう」
「失礼します」
頭を下げ、組員は身を引いた。デリは欠伸をしながら腕を伸ばし、ボキボキと首をならす。それを横目で見ていたレスは訝しげに片眉を上げた。
「これから敵の懐に飛び込むっていうのに、えらく呑気だな」
「そう?これでも緊張してるつもりなんだけどなぁ」
30分後、荷台にデリやレス、他の組員を乗せたトラックはブレーキをかけた。再び微睡んでいたデリは頭を振り意識をはっきりさせ、肘置きにしていたジェラルミンケースを開ける。その中には少し大きな銀色の注射器が三本と、青いジェル状の液体が入ったビンが収められていた。デリは慣れた手つきでその液体を注射器に吸い込ませる。
「それは何だ?」
「ミクロロボット、これをレイヴのうなじにあるプラグに注入すれば、後はロボットがレイヴのプログラムをオフにさせる」
「オフ?そんな事して良いのか?」
「ちょっと乱暴だけど仕方がないよ。相手は本気なんだから、こっちも本気でいかないと」
注射器を腰に下げたホルダーにセットし、デリは立ち上がる。同じく立ち上がったレスは、音も立てず次々にトラックの荷台から下りていく組員達を眺めながら聞いた。
「レイヴは…大丈夫だと思うか?」
「あの子のボディは完璧に作られてるから、あれ位のショックじゃ壊れないよ。問題は中身の方」
「どういう事なんだ?」
「内側に電流を流されてるから、多分プログラムがショートして誰が誰なのか認識出来ない状態になってると思う。それにトラウマにもなってる研究員に囲まれて、レイヴの人間的な部分が混乱してるはず」
「それに何か問題があるのか?」
「ありあり大有りだよ」
何処から取り出したのか、デリは飴を口に含みながら言う。笑みを浮かべて、未だ訝しげな顔をしているレスを見た。
「僕ら、殺されちゃうかもね」
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