シン、と倉庫は静まりかえっていた。刑事が期待していた銃声は、一向に聞こえる気配が無い。刑事はきょろきょろと狼狽し、それを見てフロストは口角を吊り上げた。

「やはり警察は頭が固くて助かる。俺が直々に貴様等の前に立つんだ、一人で来る訳が無いだろう?」
「何を、何をしたっ?」
「警官は十人と言ったな?生憎だが、彼らは全員死んだ。今頃はうちの組員が死体を事故に見せかける工作をしているだろう」
「…くそっ!」

 太刀打ちが出来ないと諦めたのか、刑事はコートの内ポケットから無線を取り出す。が、フロストがそれを叩き落とす動作は刑事よりも俊敏だった。同時に腕を背の後ろで捻られ、刑事の体はあっという間にコンクリートの地面に沈む。

「クソッ、クソォッ!」
「諦めろ。貴様に勝ち目は無い」
「分かってるんだろうな!俺を殺せば真っ先にお前たちが疑われるぞ!」
「勿論承知の上だ。しかし、誰が犯行したのか知っていても、貴様等には証拠が無い」
「それなら…っ、さっさと殺せ!」
「あぁ、それはまだだ。俺としては今すぐに殺してやりたいが、双子が貴様と話したいらしい」
「どういう事だ…!?」
「決まっているだろう?」

 ここで、フロストは言葉を切った。刑事の髪を掴み顔を上げさせ、耳元で低く囁く。

「拷問だ」

 サッ、と刑事の顔は青ざめた。途端に後頭部に衝撃が走り、刑事はそこで気を失う。抵抗をやめた体から手を離し、フロストは顔を上げた。いつの間にか影武者は姿を消している。その時、フロストの無線からザザザッと雑音が流れた。

『…な……旦那!』
「そう大声を出すな」
『アぁ繋がッた!旦那、大丈夫かァ?』
「心配する必要は無い。お前こそデータは手に入れたのか?」
『オウヨ、さッきオッサンに送信したトコだぜ』
「なら良い。本部へ戻れ、俺もすぐに戻る」
『りョーかい』
「あぁ、それと」
『ンぁ?』
「双子に伝えろ、『遊び相手が出来たから地下室の鍵を開けておけ』とな」



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