暫くの間、2人共、何も言わなかった。ピリピリと張り詰めた緊張と沈黙が空気を満たす。それを最初に破ったのは、フロストだった。

「…ック、ハハハハハ!」
「な、何がおかしい?」

 目元を押さえ当然笑い出したフロストに、刑事は動揺する。フロストは笑いを含みながら答えた。

「いつ誰が、『俺が最高責任者だ』と言った?」
「……何?」
「貴様はきちんと確認したのか?最高責任者を呼んだら俺が来た、だから最高責任者は俺だ、と…まさかそう言いたいのか?」

 くつくつと笑いながら、フロストはゆっくりと振り返った。その顔は書類に載っていた写真とは全く別物で、フロストとは似ても似つかない。偽物だ。刑事は憤慨し、荒々しくその襟元を掴んだ。

「お前っ…騙したな!」
「本人が来ると思う方がおかしいだろう?」
「黙れっ!最高責任者はどこだ!!?」
「ここだ」

 カチャリ、刑事の背後で銃の撃鉄を起こす音がする。その銃の引き金に指を掛けているのは、眼帯と隻眼に刻まれた深い隅。フロストだ。

「振り向かずに銃を離せ」

 フロストの指示に、刑事は銃を手放した。カシャンッと音が鳴り銃はコンクリートの地面で跳ねる。両手を挙げ、刑事は目の前にいる偽物を睨んだ。

「流石は犯罪者のトップに立つ男だな、やり方が汚い」
「では逆に聞くが、犯罪者である俺が正々堂々と現れるとでも思ったのか?まったく、警察は頭が固くて助かった」

 背後からの声に、刑事は自嘲する。が、その笑みはやがて勝ち誇った様なものに変わる。

「甘かったな」
「どういうことだ?」
「こんな事もあろうかと、この倉庫近辺に銃を持たせた警官を十人配置している。たった今、お前の頭に全ての照準が合っているはずだ」
「なんだと……?」

 フロストは眉を寄せる。笑みを浮かべたままの警官は、高らかに叫んだ。

「撃て!!」



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