────ダァンッ!

「パソコンから離れ手を上げろ!!」

 ドアを蹴破り、銃を構えた警官が侵入してきた。が、部屋にミミックの影は無い。パソコンも書類も、先ほどと同じ状態だ。怪しみながらも、警官は銃を構えたまま書棚の奥まで進んでいく。

(あッぶねェー…)

 その後ろ姿を、ミミックは見つめていた。開いたドアと壁の間に隠れたのだ。音をたてない様にドアを押し、そろりそろりと後ずさる。部屋を出て、そこからは早歩きで出口まで向かった。







「あ!せんぱーい!」
「お疲れさまでーす」

 署を出ると、双子がゴミ箱の裏から声をかけた。慌てて2人の首根っこを掴み、そのまま脇に抱えるとミミックは署から駆け足で遠ざかる。適当な路地に入り込み、ミミックは荒い呼吸を繰り返しながら双子を手放した。

「力持ちっすねー先輩」
「何慌ててたんすか?」
「ちょッと、バレかけたンだ…もォ大丈夫だけどナ」

 ネクタイを緩め、ミミックはずるずると壁を背に座り込んだ。パソコンを開き画面を見ると、数字は100%になっている。ぎりぎり間に合った様だ。

「よし、データは全部頂いたゼ」

 笑みを浮かべ腕時計を確認すると、針は午前11時を指している。それを覗き込み、双子は揃って首を傾げた。

「フロストさん、上手くいったんすかね?」
「旦那は大丈夫だろ、そォ祈るしかねェよ」









───1時間前…ZONE-15、廃倉庫


 ポチャン、ポチャンと天井から滴る水がコンクリートに水溜まりを作り、その水面を弾いて質素な音を一定のリズムでたてる。薄暗い廃倉庫はなんとも落ち着く空間ではあったが、フロストはピリピリと緊張状態を保ったまま目を閉じ、じっと何かを待っていた。ふと目を開けて、深く息を吐き出す。腰の刀に手は添えたまま、口を開いた。

「人を呼び出しておいて待たせるとは、マナーを知らないのか?」

 フロストの目の前に人はいない。その人物は背後にいるのだが、フロストは振り返ろうとはせず真っ直ぐ一点を見つめたままだ。背後に立つ人物は答える。

「すまないね、署を何者かが爆破してくれたもんで、私が少しばかり指示をだしていた」
「近頃の貴様達が弛んでいるせいでそうなるのだろう」
「それもあるが、最近の君達が少し馬鹿になったせいもある。お陰で犯人の顔はバレバレさ」

 カチャリ、背後に立つ刑事が腕を動かしたのだろう、最初の言葉を発した時から後頭部に突き付けられていた銃が音をたてた。フロストが振り返らない理由の一つはこの銃だ。

「さぁ、取引は手早く終わらせよう。私達はあの人造人間をどうこうしようとは思っていない。まぁ、多少の尋問はさせてもらっているが…兎に角、手紙で知らせていた通り、私達が欲しいのは更に上の利益だ」
「あいつが下級組員ならどうする?」
「きちんとあれの調べはついている。あれはこの街で唯一の完璧な殺戮マシーンだ。大人しくさせるのにも犠牲が出た」
「なら、そこまでして貴様達が望む利益とやらは何だ」
「分かっている癖にそれを聞くか。さては時間を稼ごうとしているのかな?」
「なんでもいい。貴様等は何を望むのか答えろ」
「私達が欲しいのは、"Evil"最高責任者、フロスト。君だよ」


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