月は今晩も相変わらず冷めた表情で街を見下ろしていた。青白い光は建物一つ一つを照らし、それはこの部屋のシャッターもすり抜けている。その光に照らされ鋭く光ったナイフをブーツの中に隠し、デスクの上に置いた銃を手にとる。
「えらく慎重だね、珍しいなぁ」
「そういうお前は、少し真剣になってみたらどうだ?」
「失礼だなぁ、僕はいつも真剣だよ?」
小さくなった棒付き飴を眺め、デリはクスクスと笑う。
「30分で舐めきれるなんて嘘だね、15分で充分」
「それはお前の舐める早さの問題だろう」
「褒めてるの?嬉しいなぁ、でも」
ガリッ、残りの飴を噛み砕き、デリは粉々になったその欠片を舌で転がしながらにんまりと笑みを浮かべる。
「ただ舐めてるだけじゃつまらない。噛み砕いてもいいし、ずっと舌の上で溶けるのを待つのも楽しみ方の一つだよ」
「何が言いたい?」
「今回は、飴になった警察が僕らに噛み砕かれるのを待ってる。尖った欠片で舌に傷をつけてやろうってね。でも、僕らはそんなにバカじゃない」
「噛み砕かずに、ゆっくり奴らを溶かせと?」
「僕はそのやり方が好きってだけ。勿論、相手の隙をついて噛み砕く時もあるんだけど」
2本目の飴を白衣から取りだし、慣れた手つきで包み紙を剥がしながら、デリは淡々と言う。その言葉は心底この状態を楽しんでいる様で、銃創に残る銃弾を確認したフロストは眉根を寄せた。
「てっきりお前はレイヴの心配をしていると思っていたが」
「ちゃんと心配してるよ?あの子の体に傷を付けられてると思うと、せっかくのお菓子も美味しくない」
言いながらデスクに近付き、デリは警察の人間から送られてきた封筒を手にとった。写真を眺めながら、口の中でカラカラと飴を転がす。
「相手もおバカさんだね、僕がいる事を知って研究所の写真を送ってくるだなんてさ」
「お前の顔の広さもたまには役に立つ」
「どういたしまして。で?明日の朝なんでしょ?警察が指定した時間って。準備早すぎない?」
「奴らの脅迫状によると明日だが、それまでに幾つか仕事を終わらせておく。その間に日も上がり時間が来るだろう」
薄く笑みを浮かべ、フロストは軍帽を被る。デリは時計を確認し、ため息を吐きながら首を振った。
「僕もそろそろ用意しないと、ミミックも準備出来てるだろうし」
「言っておくがヘマはするな。俺かお前、ミミックの誰かがヘマをすると全てに影響が出る」
コツコツと音を鳴らしながらドアに近付き、フロストはデリを振り返る。デリは相変わらず飴を舐めながら、ひらひらと手を振った。
────翌朝、警察署前
「うッし、行くぞてめェら」
「先輩…黒髪、似合わないっス…っ」
「やべっ、おもしれぇっ」
「爆笑してンじャネェよ!仕方ねェだろ変装はこンなモンだ。オラ、さッさと行け。出来るだけ時間とれよ」
「任せて下さいって」
「俺ら人気者なんで、すぐに皆集まりますから」
んじゃ、と双子は笑みを浮かべながら敬礼し、警察署へ駆けていった。窓ガラスを割り双子が署内へ入って行くのを遠くから眺めながら、ミミックは時計を確認する。すると突然、警察署から爆音が聞こえた。建物からはもくもくと煙が上がり、警官達が慌ただしくそこへ向かう。
「アイツら…ちッたぁ加減しろッてンだ」
くつくつと笑いながら、ミミックは眼鏡をかける。パン、と顔を叩き気合いを入れ、自らも警察署正面玄関へと歩を進めた。
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