そこは薄暗く、地下だった。しっとりと濡れた空気、ひんやりとしたそれはコンクリートが晒された広い部屋に相応である。中央には一見複雑な機械が置かれ、その周りには白衣を着る者が数人、機械をチェックする様に動き回っている。足音以外は聞こえないこの部屋。唐突に、その沈黙は破られた。

────バチンッ

 何かを叩き付けた様な、それか、何かが破裂した様な音が響き渡った。続け様に2回、それが高鳴る。どうやらその音は機械が発していたらしく、その機械からは複数の管が伸びている。そしてその管は、全て一人の男に結合していた。

「…っ…ぐ、ぅう……!」

 歯を食い縛り拳を握り締め、男は痛みを耐えるのと同じ様に顔を歪める。目は朦朧としているが、意識が飛ぶ様子は無かった。男は全身水に濡れ、手首には大きな手錠がかけられている。片足は無い。握り締めた拳には血が滲み、手の平の皮膚が剥がれている。過度の握り締めによるものだろう。その皮膚の下には鉄が光っていた。

「…俺は、何も…話さない」

 唐突にその男──レイヴは口を開いた。見上げた目線の先には、白衣を着ていない男が一人、腕を組み立っている。その男はため息を吐きながら、レイヴの目の前にしゃがみ込んだ。

「そう言われてもなぁ、俺はこれが仕事でね。お前が"Evil"について何か供述してくれないと、署に帰れないんだ」
「合法的じゃ、ない…」
「やり方がか?そうだな、今回は上の奴らには何も報告してない」
「軽い…気持ちで、犯罪に手を出せば…後悔する事に、なる」
「へぇ?この状況でよくそんな事が言えたもんだ」

 立ち上がり、男は白衣の者たちに目配せする。その内の一人が、機械に付いているレバーを一番上まで上げた。それを見て笑みを浮かべながら、男はレイヴを見下ろす。

「お前は叫び声をあげない様だな、なら電圧が最大ならどうだ?」

 男が言い終わると同時に、機械のスイッチが押された。起動音の後、再びあの音が響く。

────バチンッ

 その音は先程のそれより幾らか大きかった。レイヴの身体は電圧により跳ね上がり、体中の内側を走り回る尋常ではない痛みや熱さに耐え歯を食いしばる。

「ぐ、う…ぅう…ッ!」

 それでも大きな悲鳴をあげないレイヴに、男は不満げに舌を鳴らす。が、発砲されようがその胴を刀で貫かれようが表情一つ変えないレイヴがこれほどまで痛みを露にするという事は、それはもはや人間には到底耐えることの出来ない痛みだという事だった。それを知ってか知らずか、男は機械を操作する白衣を来た数人に不機嫌そうに指示を出す。

「こいつが何か吐くまで続けろ、壊れたとしてもやめるなよ」

 レイヴを一瞥し、男はその部屋を後にする。その後ろ姿を険しい表情で見つめ、レイヴは静かに目を閉じた。


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