「……ッ旦那!」

 ミミックが咄嗟に一歩踏み出したが、遅かった。鞘から素早く抜かれた刀の切っ先は、戸惑う事なくフロストの喉元に触れるか触れないかの位置で光る。

「テメェッ!ぶッ殺されてェか!!?」
「ミミック落ち着いて!」

 怒りを隠す事なく牙を剥き出し暴れるミミックを止めながらも、デリは内心焦っていた。今のこの男なら、本当にフロストを殺しかねない。が、二人の胸中に反して、刀を向けられている本人は至って冷静だった。

「ミミック、大丈夫だ」
「何がだよッ!」
「兎に角、静かにしていろ」

 フロストの言葉に、ミミックは渋々口を閉じた。が、その視線は隙あらば裂いてやろうという様に、レスの喉元を睨み付ける。デリは依然として、フロストが何を考えているのかを探っていた。

「どうしてそこまでして、レイヴを助けたがる?」
「……俺の為だ。それ以上言うつもりはねぇ」
「……」
「レイヴを助けねぇなら、あんたにはここで死んでもらう。どうせあんたは俺が殺す予定だった。予定が早まろうと何も問題はないさ」
「……俺をいつ殺そうが構わないが、人の話はちゃんと聞くべきだ」
「何?」
「俺は『たった一人の為に、この組織を危険に晒す訳にはいかない』と言ったはずだ」
「そうだ、つまりはレイヴを見殺しにするっつってんだろ!」
「勝手な解釈をするな。俺は『一人が拷問をされた故に情報を漏らし、この組織を危機に晒す事になると厄介だ』と言う意味で言ったんだが」
「じゃ、じゃあレイヴを助けに行くのか?」
「刀を下ろせ、俺が銃に手を伸ばす前にな」

 言いながら、フロストは刀の切っ先を手の甲で退ける。レスが刀を鞘に戻すと同時に、ミミックから漂う殺気は消えた。ミミックを止めていたデリはほっと息を吐き出し、フロストに指示を仰ぐ。

「で、その計画っていうのは何なの?」
「リスクは最小限に抑える。まずは誘拐されたレイヴの身柄確保。次に問題なのは、相手は警察で、この誘拐は計画されていた、ならばこの計画を立ち上げ、それを中心として動く捜査本部があるはずだ。"Evil"に関する情報が多く集められていると見て間違いない。その情報…パソコン内のデータから書類に渡る全てのものを消去する。警察に情報が把握されたままでは、再びこの様な事態が起こる可能性があるからな」

 軍帽を被り、フロストは立ち上がる。窓から見える警察署を冷めた目で見つめながら笑みを浮かべた。

「向こうは本気の様だ。ならば此方も、本気で相手をしてやろう」


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