「これはアレか?前代未聞ッてヤツかァ?」
「いや、以前にもあった。が、今回は相手が悪い」
「これは他の組員には教えない方がいいよね、動揺しちゃったら他の任務に支障をきたすから」

 相変わらず暗い殺人班幹部室で、"Evil"を纏める3人はそれぞれ言葉を交わしていた。フロストの前には、先程デリが持ってきた封筒と、その中身が並べられている。デリは写真を手に取り、切な気に眉を寄せる。写真には、複数の管に繋がれ苦悶の表情を浮かべるレイヴの姿が写し出されていた。

「可哀想に…早く助けてあげないと」
「この管、一体何なンだ?レイヴは簡単に痛がらねェだろ?」
「それは僕にも分からない…けど、体内を直接攻めてるんだと思う。レイヴの人工皮膚の下は特殊な合金でもう一枚の皮膚がある。それさえ越えれば後は無防備に近いんだ」
「ならば、その事を知る者が企てたか、企てた者に協力していると考えて良いだろう。問題は、」


────ガチャッ


 唐突に、事務室のドアが開いた。入って来たのはレスである。まだ身体が痛むのか、顔色が悪く眉を寄せている。それを見たデリはピクリと眉を寄せた。

「なぁ、レイヴの事…もう知ってるんだろ?」
「大体の状況は掴み始めてる。お前は何か知らないのか?」
「俺は…何も……」

 目を伏せ、レスは悔しそうに拳を握り締める。ふと、デリが持つ写真に気が付いた。

「それ、何なんだ?」

 デリは神妙な表情を浮かべながら、写真をレスに手渡した。その写真を見て、レスは目を見開く。その手は、微かに震えていた。

「君のYシャツの胸ポケットに入ってたんだ」
「これ…本物なのか?レイヴは……レイヴは大丈夫なのかよ…?」
「きっと大丈夫だよ。その写真は手紙と一緒に封筒に入ってたんだ。手紙には、レイヴと引き換えに"Evil"に最も必要な人物の身柄を要求する内容が書いてあった。それなら簡単にレイヴは殺さないよ。多分それは、"Evil"の情報を少しでも掴む為の拷問なんだと思う」
「そんな事誰が、」
「警察だ」

 レスが言い終わるまでに、フロストは答えた。シン、と部屋が静まり返る。フロストは手紙を掲げると、便箋の下を指差した。確かに、警察署の刻印が押され、何者かのサインもある。

「これは、間違いなく警察の刻印だ。いくらこの街でも警察の印など簡単には出回っていない。さらに、このサイン。これは"Evil"の捜査を管轄に置いている部署の、トップに立つ男のサインだ。俺は奴のサインなら幾らでも見てきた。この書体は奴のものだ、間違いない」
「こォも堂々と『警察の仕業』だッて言われりャア、俺らは派手に動けねェな…ちョッとでもヘマすッと一発でお縄だゼ」

 爪を噛みながら、ミミックは唸る。それを聞いていたレスは、決心した様にドアへと向かいながら言った。

「警察が関わってると分かったなら、警察署に行けば良い。もしかしたらレイヴを拐った事に関する書類があるかもしれないし、レイヴ本人が署内にいるかもしれないだろ」
「待てよ、警察だけが関わッてるッて決まッた訳じゃねェンだ。下手に動くとダメだッつッたダろ?」

 レスの思い付きを制す様に、ミミックはため息混じりに言った。レスはピタリと立ち止まると、ミミックに背を向けたまま問う。

「それ、ここで大人しくしとけって事か」
「テメェ一人で勝手に決めンなッてこ、」

─────ガタァンッ!

 突然、レスは近くのソファを蹴り飛ばした。ミミックに歩み寄ると、その胸ぐらを乱暴に掴み上げる。

「ならここで馬鹿みてぇに指くわえて待ってろってのかよ!?」
「何も分からねェまま軍警に乗り込ンでみすみす捕まるよりャあマシだろォが!!あァ!?」

 逆上したミミックも怒鳴り声を上げ、今にも殴り合いが始まりそうな剣幕で互いを睨み会う。

「お前これ見てねぇのか!?レイヴが死んだらどうす、」


────ダンッ!


 突然、デリが机を激しく叩いた。その表情にいつもの様な笑顔は無い。

「静かにしなよ。ここで喚いたら解決するとでも思ってんの?」

 淡々と紡がれた言葉に、ミミックとレスは睨み合っただけで手を離した。レスはデスクに近寄り、その椅子に座って目を閉じたままだったフロストに声をかける。

「なぁ、あんた、何か考えは無いのか」
「……無いと言えば嘘になるな」
「だったら!…だったら、その考えを聞かせてくれ」
「この計画はリスクを伴う。たった一人の組員の為に、この組織を危険に晒す訳にはいかない」

 目を閉じたまま、フロストは告げた。その言葉に、レスは目を見開き眉を寄せる。

「おい…それ、本気で言ってんのか?」
「仕方がないだろう」
「……そうか」

 拳を握り締め、レスは項垂れた。フロストに背を向け、ドアへと向かう。が、レスは突然振り返り、素早く刀を抜いた。

「………ッ旦那!!」

 ミミックの反応も間に合わず、レスはその鋭利な切っ先を突き出した。


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