「………っつ…」

 痛みで、唐突に目が覚めた。痛む体を無理矢理起こし、辺りを見回す。どうやらここは廃倉庫の様だ。そういえば、自分は何故こんな所にいるのだろうと考える。目の前には、完全に破損した通信機、ジャケットの下には自分のものではない銃。覚醒しきらない思考がぐるぐると、失神する前の出来事を手繰り寄せる。そうだ、自分は後頭部を殴られ失神した後、薬を飲まされた挙げ句、数人の男にリンチされた。今思い出すと薬を飲まされていたとは言え自分の情けなさに腹が立つ。そして、記憶はさらに遡り、混乱に陥った昼下がり。その引き金を文字通り引いた男は、今どこへ?

「…ダラけてる場合じゃねぇな」

 兎に角、"Evil"本部ビルへ行かなければ。もしレイヴの身に何も無かったなら、自ら本部へ帰るはずだ。







 本部ビルへと向かう途中で気付いたが、どうやら片足の骨にひびが入っている様だ。歩けない訳ではないが、酷く痛む。

(……っ、もう少し)

 高くそびえるビルの影が見え、レスは改めて歯を食い縛る。視界が揺らぎ始めた頃、唐突に誰かがレスの肩を叩いた。

「ねぇっ!」
「……あんたは」

 振り替えれば、デリが不安を顔に貼り付け立っていた。レスの顔色を見て、さらにその表情が曇る。

「3日も音信不通で、一体どこに行ってたの?それに、あちこち怪我だらけじゃない」
「俺は…大丈夫だ。それより、レイ…ヴ、が…」
「レイヴの居所知ってるの?実はレイヴも行方不明になっちゃってて………っわ、大丈夫?」

 突然ぐらりとバランスを崩し、倒れ込んできたレスを支える。意識が朦朧とするレスと肩を組み、本部ビルへと急ぐ事にした。

「大丈夫?本部まで頑張ってね!」
「レイヴ……レイヴが…」

 傷だらけのレスに、行方の消えたレイヴ。どうやら何か良くない事が起きていると、デリは眉を寄せた。







「右足首の骨と、肋骨に数本亀裂が入っています。後は何者かに殴られたらしく全身に打撲が見られます。詳細はカルテに記入しておきました」
「はい、お疲れさま」

 組員からカルテを受け取り、それに目を通しながら、デリはベッドサイドの椅子をくるくると回す。カルテから目を反らし治療の施されたレスをぼんやりと眺めていると、ふとある事に気付いた。

(なんだろう、これ…)

 Yシャツの胸ポケットに、何か小さな紙が入っている。こっそりそれを取り出し広げると、それは草臥れくしゃくしゃになった封筒だった。宛名も、差出人の名前も書かれていない。慎重に封を開けると、中にはメモと写真が一枚入っていた。

「…!」

 写真を見て、デリはハッと息を飲む。自分に誰も注意を向けていなかったかを確認し、デリは慌てて写真と手紙をポケットに突っ込んだ。他の患者を診ていた組員に、いつも通り話し掛ける。

「ちょっと僕、急用出来たから外すね。君達にここ任せとくよ」
「はい、分かりました」

 組員に笑みを向け、デリはそそくさと医務室を後にする。早足で廊下を進みながら、少しばかり唇を噛んだ。

「これは、大変な事になったなぁ…」

 デリの足は緊急事態を伝える為、この組織の最高責任者の元へと向かっていた。



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