「穏やかですねぇ」

 カオス街では珍しい、快晴の日、シープスは空を見上げながら言った。レイヴも同じ様にそれを見上げ、少し口角を上げてみせた。

「近頃は任務も少なくて、本当に静かですね」
「うん…少し、気味が悪い」


 平穏な近頃に不安を感じながら、それでもこの日々が続く事を願いながら、レイヴは目線を元に戻す。カオス街は相変わらず、賑やかな昼の顔を見せていた。
 その時、トン、とレイヴの肩が誰かとぶつかる。

「あ…ごめん、なさい」

 レイヴは軽く振り返り、ぶつかった相手に謝った。相手もそれに気付き軽く頭を下げ、足早にその場を去る。
 レイヴはその顔に、見覚えがあった。どこか、忘れていたはずの感覚が蘇る。

「………あ、いつ…」

 そうだ、見た事がある。あいつは、"父親"と関わっていた。

「………殺す…」

 レイヴが銃に手を伸ばし、一歩踏み出す。それは一瞬だった。気配が消えた事に気付いたシープスはパッと振り返る。

「レイヴ…?」

 目線の先には、なぎ倒される人と、レイヴの後ろ姿。その手には、銃。

「ッ…レイヴ!」

 しまった、シープスは咄嗟にレイヴの元へ駆け出した。だが、間に合わない。


────ガァンッ!


 一発の銃声、それを聞いた通行人の悲鳴が響き渡る。辺りは混乱に陥った。誰が撃ったのか、そして撃たれたのは誰か?混み入った街中ではそれが直ぐには把握出来ない。人々はまず自身の安全を確保しようと逃げ惑う。その混乱の中を、シープスは人を掻き分けレイヴの元へと急いだ。レイヴはもう発砲する気は無いらしく、銃を手放している。が、その姿は人混みに邪魔をされすぐに見えなくなった。懸命にそれを掻き分けるが、シープスの意思とは裏腹に、どんどん人混みに流されてしまう。

「すみません、通してください!通し……っ!」

 突然、ズキリとこめかみに痛みが走った。シープスは頭を押さえ、歯を食いしばった。レイヴの明るい髪は未だに人混みの向こうで見え隠れしている。

「こんな時に…貴方は何を………ッ!」

 突然、シープスは歩みを止めた。一瞬人混みに巻き込まれたが、次の瞬間には次々と人を掻き分け進みだす。その動作には、先程とうって変わって遠慮がない。

「お前だと、アイツまで辿り着かねぇだろ!」

 頭痛の余韻が残るのか、レスは眉を寄せながら言った。人を押し倒す様に進んだが、そこには何故かレイヴの姿は無く、レイヴがよく使っていた二丁拳銃の片割れが落ちていた。

「畜生っ…!」

 拳銃を広い上げジャケットの下に隠しながら、レスは辺りを見回す。レイヴの姿は見つからない。が、見覚えのある頭が見えた。先程レイヴにぶつかり、レイヴを暴走させる引き金になった、あの男だ。

「おい、てめぇ待て!」

 あの男を捕まえる事が出来れば、きっとレイヴの居場所が分かる。そう思い足を踏み出した、しかし。


───ガッ


 後頭部に衝撃。胸中で悪態をつくレスとは裏腹に、意識は遠退いていった。



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