見せる笑顔はきらびやか
しかし裏では闇の顔
それでも楽しい、夏の夜





『ニセモノサマーフェスティバル』




 どうしてこういう状況になっているのか、フロストがそう考える事をやめて暫く経った。そして未だ、"こういう状況"とやたらは継続中である。

「レフ、あっちに射的あるぜ!」
「まじ!?やるやる!」

 楽しそうな笑みを浮かべ、双子が人混みを掻き分けながらバタバタと走って目の前を横切った。この光景を見るのも数回目で、フロストは深々とため息を吐く。それを聞いて、デリはクスクスと笑った。

「ロスティも遊びたいなら行けばいいのに」
「そんな訳が無いだろう…俺は、今すぐ帰りたいんだ」
「だったら帰れば良いのに」
「それをさせないのはどこのどいつだ。それに、あいつらを見張っていないと仕事にも手がつかない」

 人混みに向けていた視線を伏せ、被っていた軍帽を目深に被り直す。それと入れ代わる様に、デリは賑わう通りを眺めた。日はとっくに沈み、街は暗闇に包まれる。が、今夜は暗闇の訪れと共に、様々な出店が開かれていた。規模は大きくは無いが、一年に一度、夏の終わりに催される祭りに人々は奮って参加する。その祭りに顔を出そうと誘ったのは勿論デリで、二人は通りに面するカフェのテラス席に座りその様子を眺めていた。そのテーブルに、背後から影が伸びる。

「ッたく、ちッたァ落ち着けッての」

 走り去った双子の背を見て苦笑を浮かべながら、ミミックはテーブルの上にどさりと菓子類を広げた。これらは全て出店で売られているもので、デリは嬉しそうに目を輝かせる。

「うわーこんなに!ありがとうミミック」
「あァ、コレもダロ?」

 ミミックは思い出した様に胸ポケットをまさぐり、周りを見渡してから中の物をデリの手に滑り込ませた。デリは手の中の物を見ようとはせずに、自然な動作でそれを白衣の内ポケットに押し込む。ここはカオス街だ。いくら華やかな祭りが催されようとも、人混みの裏では様々な闇取引が行われている。

「ア、そォいやァレイヴ知らねェか?」

 自らも椅子に腰を落ち着かせ、ミミックは2人に聞く。

「レイヴ?いなくなっちゃったの?」
「まァ、シープスがついてッから大丈夫だろォけど」
「あそこでシューティングをしているのがその2人じゃないのか?」

 言って、フロストは少し離れた所にある出店を目で示した。確かに人混みの中、金と白の頭が見え隠れしている。

「レイヴ楽しんでるかなぁ」
「こンだけ賑わッてりャあテンション位上がンだろ」
「まぁ、ここにローテンションな人がいる訳だけどね」

 わざとらしくため息を吐きながら、デリはフロストの軍帽を取り上げた。驚いたフロストは軍帽を取り返そうと慌てて腰を浮かせ手を伸ばす。が、デリはその軍帽をミミックの頭に乗せた。

「おい、返せ」
「さて旦那、俺ラも行くゼ」
「…は?」

 ガシッ、と腕を掴まれ引っ張られる。腰を浮かせてしまったせいもあってか、いとも簡単にフロストの体は椅子とテーブルから離れてしまった。

「おい、ミミック離せっ」
「なァンでだよ、遊ぼうゼ?」
「俺は、人混みが嫌いなんだ!」

 全体重を後ろにかけフロストは嫌がるが、力技でミミックに勝てる訳もなく、ずるずると引っ張られてしまう。順調に人混みへ近付く2人の後ろ姿を見つめながら、デリはクスクスと笑った。

「んじゃ、僕はこのお菓子を片付けてから合流するかな」

 山積みの菓子を前に、デリは手を擦り合わせた。急いで食べ終わる必要はない。夏の終わりを知らせる祭りは、始まったばかりなのだ。





『ニセモノサマーフェスティバル』 Fin.
(九九九九を踏襲した★様に捧ぐ)




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