相手が卑怯な手を使ってくるならば、こっちは更に上を行く卑怯な手を使ってそれを踏み倒す。
そうでもしないと、弱者はこの街では生きられない。





『白黒決めるは己が運』





「おにぃさぁーん、暇ー?」
「初回ならサービスするわよー」

 意味を成しているのかどうなのか、曖昧な電灯が立ち並ぶ細い通りで、露出度の高い服を着た女が数人、道を行く男に声を掛けていた。もちろん純粋な好意ではなく、金銭目的に己を売る為である。この通りを利用する男もまた、それが目的であった。
 そんな通りに一人、紳士の様な格好をした中年の男がいた。男は不安げに辺りを見回し、時折腕時計を確認する。その時突然、男の背後から、ねぇ、と声を掛ける者がいた。男はそれに気付き振り返る。

「おじさん、相手探してんの?」
「俺らがしてあげよっか、相手」

 ニコニコと笑みを浮かべながら、双子の少年が男を見上げていた。男はジッと二人の顔を見た後、またきょろきょろと辺りを見回す。

「大丈夫だよ、ぼったくったりしないし」
「おじさんなら特別に、二人で相手してあげるよ」

 男の腕を掴みながら、双子は笑みを浮かべ首を傾げた。男は一瞬躊躇した後、双子と目線を合わせ笑顔を見せる。

「いいよ、いくら?」
「二人で二万」
「安いね」
「おじさんは特別だよ」

 じゃあ決定で、と男は双子の肩に手を置いた。こっそりと双子がウインクし合った事を、男は知らない。











「んじゃあ俺、風呂入って来る」

 どこにでもある小さなホテルの一室で、ひらひらと手を振りながら、双子の一人が浴室へと入って行った。もう一人はベッドの上で胡座をかき、体を前後に揺らす。男はというと、バスローブを着てソファに座っていた。

「ねぇ、おじさん」
「なんだい?」
「おじさんは何の仕事してんの?」
「気になるかい?」
「だって、時計とか鞄とか、全部ブランド物みたいだし」
「よく見てるね、だから僕に声をかけたのかな?」
「まぁ…そうかな」
「正直者だね」
「で、何の仕事してるの?」
「僕の仕事の話はいいよ、君の仕事の話をしよう」

 唐突に立ち上がり、男はベッドに膝を着いた。少年は焦りの表情を見せ男を見上げる。

「え、俺の仕事?」
「僕の相手をするのが君の仕事」
「いや…まぁ、そうだけどさ。まだアイツ風呂入ってるし…」
「まずは君だけでいいよ、その分の代金はちゃんと払うし」

 荒い呼吸を繰り返し、男は少年の腕を掴んだ。少年は逃げようと抵抗するが、ますます握る力は強くなる。

「怖がらなくていいよ、大丈夫だから」
「や、ちょ…待っ!」


─────ゴンッ




 唐突に、鈍い音が響いた。男は白目を向き、少年の上に倒れ込む。下敷きになった少年はすぐに動かなくなった男の体を押し退けると、不機嫌そうに眉を寄せた。

「おっせぇよ、ライ」
「ごめんごめん、このおっさんがこんなに早く手ぇ出すとは思ってなくてさ」

 レフの目線の先では、ライがケラケラと笑いながら、凶器と化したガラスの灰皿を机に置いていた。頭に血が滲んだ男の死体を眺めながら、レフが舌打ちを鳴らす。

「まじ気持ちわりぃ」
「お前泣きそうな顔してたな」
「してねぇし」
「嘘吐け」
「そんな事より、さっさと貰うもん貰ってずらかろうぜ」

 レフは埃を払うように捕まれていた腕をパンパンと叩きながら、男の鞄を顎でしゃくる。その鞄をレフに投げ渡し、ライは男の着ていた衣服を調べ始めた。が、ポケットには埃が入っているだけ。

「チッ、ポケットには何もねぇぜ」
「それなら財布に札束でも…………はぁ?」

 財布の中身を確認し、レフは眉をしかめた。男の財布には、札束どころか、始めに約束していた二万円さえ入っていなかったのだ。辛うじて入っていたコインを指で弄びながら、レフは男の死体を蹴りつける。

「マジありえねぇ…このオッサン、ヤり逃げするつもりだったみたいだぜ」
「あークッソー…誘い損かよー…」
「直接被害受けたのは俺だけどな」

 膨れっ面でもう一度男の死体を蹴りながら、レフはサングラスをかけた。ライもそれに習いながら、ベッドサイドにある電話に近づき、受話器を手に取る。

「…あ、オーナー?俺だよ、ライ。…うん、またやった。だから掃除お願いしときたいんだけど……金なら払うって。ん、サンキュー」

 明るいトーンで会話を終え、ライは受話器を置いた。部屋を見回しクス、と笑う。

「ここのオーナーの掃除の腕は一流だからな」
「当たり前だろ、元"処理班"だぜ?明日には何も無くなってる」

 煙草をくわえながら、レフはベッドから下りドアへ向かう。その後に、ライも続いた。










「で、この後どうする?」
「どうするもなにも、もう一匹位引っ掛けねぇと」
「そりゃそうか、あのオッサンのせいで今日の収穫ゼロだもんな」

 先程の男を誘った時と同じ通りで、双子は再び通行人に目を配っていた。が、これといって良い獲物が見つからない。

「なんだよー、今日はハズレの日か?」
「それ言うと凹むからやめろ」
「んな事言ったってよ…………おっ」

 唐突に、レフが嬉しそうな声をあげた。目線の先には、若い男が一人。スーツを着て、眉を寄せながら勧誘をする者を見つめていた。その顔を見ながら、ライは首を傾げる。

「んー?俺あいつ見た事あるぞ?」
「俺もある。ほら、あいつだよ、署に忍び込んだ時見ただろ」
「あー!新人の奴か!」

 ライはなるほど、と頷きながら、暫くその男を見つめる。そして、ニヤ、と口角を上げた。

「新人なら何も分かってねぇし、俺らの顔も知らねぇ」
「少なくとも、さっきのオッサンよりは金は持ってんだろ」

 笑みを浮かべ、双子は顔を見合わせる。男に近付きながら、ライが聞いた。

「もしバレて捕まったらどーするよ?」
「んなもん、捕まった時は捕まった時だ」
「そうだな、」

 ケラケラと笑い、サングラスを外す。男まではもう少しだ。

「もしダメなら、運が悪かった、それだけさ」










『白黒決めるは己が運』 Fin.
(有本一葵様に捧ぐ、相互感謝)








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