真っ白だった、なにもかも。
誰もいなかった、周りには。
だから何度でも、誰かを呼んだ。




『温感』





「どうしたんですか?」

 シープスは困ったように笑みを浮かべ、両手に持っているコーヒーカップの一つをテーブルに置いた。ソファの上で膝を抱え床を見つめているレイヴの向かい側に座り、自らもコーヒーを啜る。レイヴは何も言わず、自身の好きなコーヒーさえ飲もうとしない。ここ、シープスの私室へ突然やって来たかと思うと、そのまま無言でソファに座り膝を抱えたまま今に至るのだ。普段から、彼の行動には予測出来ない点がある。数年の付き合いで少しばかりは理解したつもりだったが、どうやら思い過ごしだったようだ。

「あの、レイヴ?何かあったんですか?」
「…………」
「言ってくれないと、分からないんですが…」
「…………………雪」
「え?」
「…雪が、降ってる」

 目線は床に落としたまま、ス、とレイヴは窓を指差した。確かに、カーテンの向こうでは白い雪がチラチラと舞っている。そういえば、今日は近年まれにみる大雪だと誰かに聞いたのを思い出した。だが、雪が降っているという原因で、レイヴが鬱ぎ込んでいる理由が分かった訳ではない。その理由を雪を眺めながら必死になって考えていると、再びレイヴが呟いた。

「雪は、白い」

 シープスはレイヴを見る。

「あそこも…真っ白だった。何もかも、白くて、俺だけが…違った。雪を見ると、思い出す…。それ、に…雪は、冷たいから、俺も…冷たい、から。それが……怖い」

 膝を抱き眉を切なげに寄せながら、レイヴは告げた。シープスはその声が震えている様に聞こえ、静かに立ち上がりレイヴの隣へ腰を下ろす。そして、そっとレイヴの手をとった。

「レイヴ、私を見て下さい」
「………」
「私は、何色に見えますか?」
「……白い…」
「冷たいですか?」

 シープスの問い掛けに、レイヴはその手をぎゅ、と握り目を閉じる。

「………温かい」
「私には、貴方も温かいですよ」
「……え?」
「たとえ体温が無くとも、私には貴方が温かい。それは触れて分かるものではありませんが、それでもやはり、温かいんです」

 シープスの真摯な言葉に、レイヴは何も言わずに顔を見返す。

「あぁ、コーヒーが冷めてしまいましたね」

 温かいのを淹れてきます、とシープスはレイヴのカップを手に立ち上がった。その背を見つめ、レイヴはまた膝を抱き、そこに顔を埋める。


 なんだか少し、泣きそうになった。


『温感』 Fin.






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