繋がってゆくは偽り恨み
断つ事は出来ず
止める事も出来ぬ
それが世の常 人の常
ならばそれに 喰らいつくのみ
ならばそれを 狙い撃つのみ
『巡り巡って誰のせい』
雨上がり特有の匂いの中、バシャバシャと、足元で水溜まりが激しく跳ねた。恐らくコートは汚れているだろうが、そんなものを気にしている場合ではない。兎に角、人通りの少ない所へ行かなければ。
何本の路地を曲がったか分からなくなった頃、ミミックは唐突に立ち止まった。クルリと後ろを振り返り、呆れた様にため息を吐く。
「アンタら本当にひつけェな。女に嫌われッぞ?」
ずらり、男達が並んでいた。それぞれの手には武器が握られ、目には殺意が見て取れる。その内の一人が笑みを浮かべ、口を開いた。
「軽口を叩いていられるのも今のうちだ。ぶっ殺してやる」
「またそれかァ?今度は誰の知り合いダヨ…。アぁ、分かッた。昨日の晩飯の兄貴ダナ?」
晩飯と同じ匂いがするゼ、とケタケタ笑いながら、ミミックは二股の舌を覗かせる。その様子に、男は一瞬目を見開いたが、再びその目は細められた。懐中時計を確認し、ミミックは舌打ちを一つ。苛ついたように眉間に皺を寄せ、目の前の男たちに人差し指を立てる。
「時間がねェンだ。さッさとヤろうゼ」
そして、その人差し指をクイ、と動かした。
キィンッ、とナイフがコンクリートの上に落ち、そのままカランカランと音をたて無残に横たわった。ついさっきまでそのナイフを握り締めていた男は壁に背をつき、ズルズルと座り込んだ。その周りには、喉を裂かれる等して絶命した男の仲間達が重なり合っている。男の顔を覗き込み、ミミックは頬に出来たかすり傷を指で拭った。
「アンタ、案外しぶてェなァ」
「あ…有り得ない…。素手で、これだけの人数を……」
「驚いたかァ?生憎、俺ァ人間じャねェンだ。他の奴と一緒にすンな」
「ど、どういう事だ?」
「詳しいことを説明する義理はねェよ。大体、時間がねェッて言っただろ?」
あの世で弟に会ッてきな。そう笑って、男の喉を裂こうと手を振り上げる。その時、目の前の男が、銃を構えた。
「なッ……!?」
「あの世に行くのはお前だ!」
勝ち誇った笑みを浮かべ、男は引き金に指を掛ける。為す術もなく、ミミックは舌打ちを鳴らした。
ガァンッ────!!
ドサリ、男の体はコンクリートに倒れ込んだ。ミミックは戸惑いつつに男の死体を見下ろす。男のこめかみには、銃弾が撃ち込まれていた。
「油断は禁物だと、あれ程教えてやったろう」
左からの声に驚いて視線を上げる。壁にもたれ掛かっていたのは、赤い軍服の男だった。
「…旦那?なンで…」
「まったく…お前はいつもそうだ。相手を倒す寸前に隙を作る」
カチャカチャと弾を代えながら、フロストは横目でミミックを見やり呆れた様に軽くため息を吐く。決して誇れるようなものではない場面を見られてしまったミミックは、バツが悪いという風に頬を掻き、笑みを漏らした。
「すまねェな、旦那。ンで?旦那はなンでこンな所にいンだ?」
「大した理由ではない。ただ少し…」
そこで、フロストはパッと顔を上げた。路地の向こうに目を凝らし、フン、と何かを鼻で笑う。
「もう追い付いて来たか。鼻の利く奴らだ」
「ンぁ?誰の事ダヨ?」
「今に分かる」
フロストの言葉に、ミミックは路地の向こうに目をやった。薄暗い路地に、いくつもの影が微かに浮かんでいる。時折怒鳴り声が聞こえ、その内容は目の前にいるフロストを指すものだった。
「どうやら、相当俺の事を恨んでいる様だな。2、3日前から跡をつけられていた」
「旦那もかァ?俺もコイツらに恨まれてたンだ」
バタバタと、足音が近付いて来た。人数は少なくない。それを聞いたフロストはため息を吐き、軍帽を目深に被る。
「いつまでも減らないな…。人も、恨みも。次から次へと続いていく」
それはまるで、鎖の様だと、そう、呟いた。
『巡り巡って誰のせい』Fin.
(相互記念に嶺歌様へ捧ぐ)
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