誰かが勢いよくドアを叩く。

うんざりしてる僕は、
窓を開け、終わりを待ってる。





『終止符が欲しい』





「殺そうと思わないのか?」

 暗い室内には男が二人、他には誰もいない。冗談ではなく本当に殺されるかもしれないこの状況で、フロストは酒を片手に目の前にいる男にそう問い掛けた。問われたレスは不適な笑みを浮かべ、刀に手を添える。

「生憎、丸腰のあんたに刀を向ける気はないんでね」
「ほう、貴様にも義が残っていたのか」
「違う。銃を片手に生きようともがくあんたが見たいだけさ」

 フロストが腰掛けているソファの肘掛けに膝をつき相手を見下げ、脅す様に声を低くした。それでも何の感情も浮かべず自分を見上げてくる隻眼に、多少の悔しさが込み上げる。

「今ここで俺を殺せば、この組織も街の権力も手に入るかもしれないんだぞ」
「そんなものには興味ないさ。相手が抵抗しないなら、俺だって燃えやしない」
「それなら、変態だと罵ってやろうか?」

 怒りに任せて俺を殺せばいいだろ、と笑みを浮かべ酒を煽る姿からは焦りや恐怖を感じさせない。口をきかず、暫くお互いに睨み合う。空間を支配するのは、殺意と沈黙だけ。その沈黙を破ったのは、レスだった。ソファから下り、目を隠して上を向きながら口角を吊り上げる。

「…ックク、クハハハハ!」
「…………」
「ハ、ハハッ…あぁ、やっぱりあんたは殺し甲斐があるよ」
「それはそれは、光栄だな」
「精々任務では死なないでくれよ。あんたを殺すのは俺だ」
「今なら俺を殺せるのに、その可能性を逃すのか。案外臆病者なんだな」
「そうじゃない。あんたも分かってるはずだ」

 クスクスと笑いながら、レスはドアを開けた。廊下の光が室内を刺し、その光にフロストは目を細める。

「手に入らないからこそ欲しなる。そうだろ?」

 ガチャリとドアが閉まり、再び室内が暗くなった。フロストはグラスに残っていた酒を揺らし、それを一気に飲み干す。バタリとソファに横になり、軍帽を目深に被った。

("手に入らないからこそ欲しくなる"、か……確かにな)

 クク、と笑いを漏らせば、次から次へと声が溢れ出す。誰かに気付かれぬよう声を押し殺しながら、そっと目を閉じた。

「そんなに欲しいなら、幾らでもくれてやるさ……俺にもたまには寝かせてくれ」

 暗闇に手を伸ばし、何かを掴む訳でもなく握り締めた。



『終止符が欲しい』 Fin.





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