一人だと思っていた、
だがそれは間違っていた。
周りを見渡せば、
そこには必ず、誰かがいた。
『すばらしきこのせかい』
「久しぶりの休暇ですねぇ」
"Evil"本社ビルの自動ドアをくぐり、シープスはんー、と伸びをする。天気は快晴、絶好の休暇日和と言ったところか。
「休暇は、嬉しいのか?」
後からドアをくぐったレイヴは、腕章を取りながらシープスに聞く。シープスはレイヴを振り返り、おや、と首を傾げた。
「嬉しくないんですか?」
「そもそも、俺は、休暇を…知らない」
「疲れを知りませんからねぇ、貴方は」
苦笑を浮かべ、シープスはまた前を向き歩き出した。レイヴは黙って彼について行く。
「休暇というのは、仕事を忘れ、自分の好きな事をする期間の事です」
「自分の…好きな事」
「家に帰って家族や恋人とゆっくり過ごすのも良し、一肌脱いで仲間と明るく遊ぶも良し、全てを忘れ一人で遠くに旅をするも良し…。人によってそれは様々です」
カオス街の人混みの中、二人は人を交わし歩き続ける。人々はお互いに言葉を交わし、笑い声を上げている。昼間だけは、犯罪者や薬物依存者だらけの無秩序な街ではなく、どこにでもある平凡な街の様に見えた。
「ですが、」
シープスは話を続ける。
「僕には家族も、恋人もいません。だからと言って、一人で現実逃避の旅は億劫です」
なので、とシープスはレイヴに笑いかけた。
「仲間と過ごす事にします」
「なか、ま?」
相変わらず無表情のまま、レイヴがそう繰り返したのを聞いて、シープスは一瞬、悲しそうな表情を浮かべる。彼には、休暇や仲間といった、仕事に関係の無い単語はインプットされていないようだ。
「仲間、なんて…いない」
「……酷いですねぇ、僕の前でそんな事」
ため息をつき首を振った後、シープスはレイヴの顔を見て、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「僕は貴方の仲間ですよ」
また前を見て歩き続けるシープス。レイヴはそれに少し遅れついて行く。シープスの言葉にも、レイヴは無表情のままかと思われた。が、しばらくした後、ふと立ち止まった。
「シープス」
「はい?」
「………ありがとう」
そう小さな声で呟いた。レイヴは未だに無表情のままだが、シープスはレイヴを振り返り、
「こちらこそ」
そう言って笑った。
暖かい日差しが、彼らを後ろから優しく照らしている、そんなある日の午後。
『すばらしきこのせかい』 Fin.
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