朝起きてトイレに行くと、誰か知らない人がそこで寝ていた。





『ハロー、侵入者!』






 まさに、ポカン、だった。思わず小脇に抱えていた愛機のパソコンを落としそうになる程、カブは驚き固まった。大きい瞳を更に丸くしたのは、まさに目の前の現状である。本来ならば便座があるだけの狭い個室。だが、その便座のフタを閉め、それに頭を預け寝ている男がいた。

「がぁーッ、がぁーッ」

 こちらに背を向けて大きなイビキをかいているその男を前に、カブはどうすれば良いのか全く分からなかった。何故こんなにも寝づらい場所で寝ているのか、そもそもこの男は誰なのか?

(敵…なのかな…?)

 と、カブはパソコンを抱え直し首を傾げる。だがもし敵であったなら、これほど間抜けな敵は今まで見たことがない。とにかくこの船の持ち主であるJJに、侵入者がいる事を知らせなければ、とカブが踵を返そうとした時、ふと、カブは男のベルトに差し込まれた筒状の物に目を止めた。それをカブは以前見たことがあった。ビームサーベル──つまりは、武器だ。

「んがッ…」
「っ!?」

 ふいに、寝ている男が身動いだ。イビキが止まる。男がゆっくりと顔を上げた。まだ、振り返らない。武器を取り上げるなら今しかない。カブは気配を悟られぬよう息を殺し、ゆっくりとビームサーベルに手を伸ばした。

─────パシッ

「……っ!!」

 腕を掴まれた。完全に目を覚ましたであろう男はゆっくりと振り返る。目が、合った。

「…アン?アンタだァれだ?」

 刹那、視界が反転した。男に完全にのし掛かられ、カブは辛うじて動かせる足をバタつかせる。

「この…っ、どいてよ…!」
「ンン?ダメダメ、アンタだァれだ?」

 グイ、と頬を掴まれた時、カブは初めて全体的に男の顔を見た。オレンジの髪を長く伸ばし、ヘアバンド代わりなのか頭に赤い布を巻いている。ニタニタと笑う口元にはピアスがあり、時折見える舌にも銀のピアスが光っていた。すでに色々な特徴がある顔だったが、一際特徴的なのはその目だ。左目はいたって普通だが、右目は違う。左目に比べ大きく見開かれたその目の瞳孔には、渦巻き状の模様があった。ずっと見ていれば目を回しそうなその瞳から目を離し、カブは頬を掴む手の手首を持った。

「いいから離してってば!」
「ダァーメ、あやしいヤツは捕まえるのが当たり前でショ」
「あやしいのはそっちだよ!」
「ンン?オイラ?オイラあやしくナイナイ。オイラはジョージ。でもお前はあやしいヤツ」

 ジョージと名乗る男は、笑いながらカブを怪しい奴だと決め付けた。勝手に人の船に入り込み、トイレでイビキをかいていた彼の方が十分に怪しいが、その事実は全く忘れているようだ。

「あやしいヤツはどォするかッて?決まってんじャン?」

 始めから上がっていた口角が、ますますつり上がった。彼が腰に手を伸ばしたのを見て、カブはぞっとする。案の定、取り出されたのはあのビームサーベルだった。スイッチを押すと、ヴォン、と音をたてその刃が姿を現す。その刃は、簡単に人の胴体を輪切りに出来る。

「あやしいヤツは、コロシちゃえ」


 1 2 3


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -