手錠を眺めながら彼らは言う。あいつにだけは捕まりたくなかったと。





『ここに乱暴者が1人』





─────カラン、

 店の入り口である自動ドアが開くと同時に、備え付きのスピーカーから鐘の鳴る音が流れ昔の雰囲気を醸し出した。店の中で酒を楽しんでいる客は話す事をやめないが、視線は確かに今しがた入店した男に向けられる。男はまっすぐカウンターに向かい、近寄ってきたバーテンにありがちな酒を注文した。暫くして、バーテンが男の元へ酒を運ぶ頃には、客の視線は男から外れていた。



「なぁあんた、聞いたことあるか?」

 ふいに、酒を飲んでいたその男はバーテンに話し掛けた。派手な色をした長い前髪の下から、バーテンは鋭い視線を感じとる。男はグイ、と一気に酒を飲み干すと、グラスに残った氷をカラカラと転がしながら話を続けた。

「ここら辺に、50万ガリオンの首がいるって聞いたんだ…知ってるか?」
「……お客さん、賞金稼ぎですか?」
「あぁ、まだまだ駆け出しでよ………それにしても、」

 唐突に言葉を切り、男は両手を上げた。その男の背後では、さっきまでグラスを傾けていた客が全員、その頭に銃口を向けている。

「盛大な歓迎だな」
「いえ、それほどでも。お客さんには申し訳ないですが、ここは賞金稼ぎお断りでして」
「そっか、そりゃあ知らなかった」
「銃を出して下さい」

 バーテンの言葉に、男は素直に従った。銃を手に持ち、再度頭の辺りまで手を上げる。

「それを捨ててもらえますか?」
「あぁ、分かった」


 それは、一瞬の出来事だった。男は手を上げたまま、銃を手放す。支えを失った銃は真っ直ぐ床へと落ちていく。すると突然、男が動いた。銃が床へと到達する直前に、男はしゃがみ込み、銃を手にした。低い位置から正確に、自らに銃を向ける相手の手の甲を狙い引き金を引く。銃を構えていた客たちは突然の素早い動きに対応出来ず、次々と銃口から吐き出されたエネルギーに手の甲へ焦げ臭い穴を開けられた。

「うぎゃあああああああ!」
「手が…手が…!!!!!!!!!」

 皆が手を押さえ、傷口の熱さに耐えきれず悲鳴をあげる。床にのたうち回るそれらを無視して、男は立ち上がりバーテンに銃口を向ける。だが、バーテンも銃を構えていた。

「あんただろ、50万ガリオン」
「…えぇ、良く分かりましたね」
「分かるも何も、顔はとっくに割れてんだよ。素直について来た方が身の為だぜ」
「いえ、そういう訳にはいきませんよ…賞金稼ぎのJJさん」

 グ、と銃を持つバーテンの手に力が入る。男────JJはその動きを見逃さなかった。左手で相手の銃を払い退け、発砲するのではなく銃のグリップでバーテンのこめかみを殴る。銃を払い退けられた際にバーテンは咄嗟に引き金を引いたが、放たれた弾はJJの頬を掠っただけだった。こめかみを殴られた為にバランスを崩し倒れかけたバーテンの顎を、JJは下から蹴り上げる。続いて鳩尾に何発かの重い拳がめり込み、最後はストレートがその鼻筋を折った。口や鼻から血を垂れ流し、バーテンは苦しそうに呻く。JJはカウンターに腰掛け煙草に火をつけながら、少しばかり苛つきの滲む声で聞いた。

「なんで俺の名前知ってんだ」
「…近頃、話題ですよ…あなたに目を付けられれば、必要以上に痛め付けられる、って…」
「あ、そ」

 興味無さげに返事を返し、JJはカウンターから下りる。バーテンの首根っこを掴み、ズルズルと引きずった。

「てめぇらが素直に捕まらねぇのが悪ぃんだろ」


 俺は殴る前に警告した、という言葉を残し、吐き出された紫煙が、未だに血生臭い店内をゆらめいた。




『ここに乱暴者が1人』 END




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