叫び声すらあげる事が出来なかった。驚きや恐怖で、ミシェルは本を落としながら後ずさる。頭から生える角、鋭い牙と爪に、骨と皮だけの大きな翼、腐敗した皮を纏う細い四肢…見上げた視線の先にいたのは、悪魔だった。

『貴様が"羽をもつ男"だな!?』

 頭の中に、直接声が響く。ミシェルは首を振ってさらに後ずさるが、無情にも踵が壁にぶつかった。悪魔が笑いながら爪と牙を光らせ降下してくる。

(僕はここで死ぬのか?突然現れた化け物に、訳も分からないまま殺される?)

 無駄だとは分かっていても、気付けばミシェルは叫んでいた。

「助けて!!!」

 その直後の出来事は一瞬だった。何処からか、影が伸びる。その影は悪魔の影に繋がるとその場から"立ち上がり"、悪魔の身体に素早く巻き付く。影にがんじがらめにされた悪魔は身動きがとれないらしく、牙を向いて恐ろしい声で唸った。すると突然、何処からともなく目の前に男が現れた。ミシェルに背中を向けている男は黒いローブを纏い大きな鎌を持っていて、その姿はまるで、死神だ。やっぱり僕はここで死ぬのかと、ミシェルが覚悟を決めたその時、その男の持つ鎌が、悪魔を切り裂いた。

「ギャアアアアアアア!!!」

 鋭い断末魔をあげ、悪魔は断面から徐々に灰になっていく。あっという間に悪魔は灰の小さな山となり、路地には静けさが戻った。鎌を持った男はいつの間にか姿を消している。が、その場にまだ留まっているものがいた。悪魔の動きを封じた、あの影だ。影は灰の回りを蠢くと、静かに短くなっていく。そして、曲がり角で影は動くのをやめた。人の形となった影が、こっちへ近付いてくる。姿を現した影の持ち主は、一人の男だった。真っ白な長い髪を後ろで束ね、トレンチコートをかっちりと着込みマフラーを巻いている。何よりも特徴的なのは、黒い布を目元に巻いている事だ。

「ミシェル=エリオットか?」

 静かに、その男は聞いた。ミシェルは頷く。

「……ついて来い」

 そう言って、男は踵を返す。相手が敵か味方かは分からなかったが、その男から感じられる闇に、何故か敵意は抱かなかった。ミシェルは散らばった本を広い集めて、その男の背中を追った。





 辿り着いたのは、小さな本屋だった。看板は汚れ、書かれた字を読むことが出来ない。男はその本屋の扉を押し上け入っていってしまう。ミシェルも慌てて扉を押し開けると、カラン、と入店を告げるベルが鳴った。


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