小屋は閉まり、見世物のヴィクスたちは檻に鎖で繋がれる。冬だというのにも関わらず外で寝なければならなかった。凍え死んでしまう者も少なくない。頼れるものは与えられた薄い毛布だけで、ヴィクスはそれをキツく体に巻つけながら無理矢理眠りにつこうとしていた。そこへ、隣の檻にいる羽の生えた少年がヴィクスに声をかけた。

「なぁ、なぁヴィクス」
「……ん?なんだ?」
「今日さ、変な客いなかったか?」
「……あぁ、いた。お前んとこにも行ってたのか?」
「おう、なんか普通の客とは違う感じだったな」
「手帳にメモしてた。何やってたんだろな?」
「さぁ、それは知らねぇ。ところで、こっからが本題なんだ。俺、逃げようと思う」

 少年の言葉をきき、ヴィクスはさっと青ざめた。今まで多くの者が逃げようとし、失敗して殺されたというのを聞いたことがあるからだ。管理人に気付かれぬよう、小声で警告する。

「やめとけって、失敗したら殺されるんだぞ?」
「大丈夫、俺、羽生えてるから飛んで逃げられる」
「どうやってそっから出るんだよ」
「針金で鍵を開けられるようになったんだ。実はもう足かせも外してる。………なぁ、お前も逃げるか?」
「え?」
「俺が檻から出て、お前の檻と足かせの鍵を開ける。もう管理人は寝てるだろうし、気付かれないって!」

 少年に説得されればされる程、ヴィクスの不安は薄れていった。確かにこれまで多くの者が殺されてしまったが、どうせ自分も客に飽きられてしまえば殺されるのだ。結果が同じなら、少しでも希望がある道を選んだ方がマシではないだろうか?思考を巡らせた結果、ヴィクスは覚悟を決めて頷いた。

「俺も行く」
「よし、なら足を格子から出してくれ。先に足枷を外すから」

 言われた通りに、ヴィクスは格子と格子の間から出来るだけ足を出した。少年が手を伸ばし、鍵穴に針金を入れる。思っていたよりも早く、足枷は軽い音をたてて外れた。足を引っ込め、ヴィクスは少年が檻から出てくるのを待つ。その間は周囲に目を凝らしていたが、管理人が来る様子は無かった。暫くして、檻の扉がキィ、と音をたて開いた。少年は檻から出ると、すぐにヴィクスの檻の前でしゃがみ込む。針金を南京錠の鍵穴に差し込み、慎重に動かし始めた。だが、なかなか鍵が開かない。

「おい、もうちょい急いだ方が良いんじゃねぇか?」
「分かってる…けど開かねぇんだ!」
「バカッ、大声だすな」

 少年は明らかに焦っている様子で、手元がおぼつかなくなっていた。手が震え、何度も針金を落としてしまう。

「開け開け開け…!」
「もういい、俺の事はもういいから逃げろ」
「ダメだ!」
「けど、お前が捕まっちまったらどうす…」

─────ガッ!

 突然、鈍い音が響き渡った。少年の体がグラリと揺れ、そのまま地面に倒れ込む。そして、ピクリとも動かなくなった。ヴィクスはゆっくりと、その少年から目線をあげる。そこには、笑みを浮かべた管理人がいた。手には血の付いた金属の棒が握られている。

「なぁ、魚人小僧。こいつ、逃げようとするなんて薄情な奴だなぁ?寝床も飯も用意してやってんのに、逃げようとするなんて、なぁ?」
「あ……あ……」

 何も、言えなかった。気付いた時には、檻から引きずり出され首を絞め上げられていた。

「てめぇもそうだろ!あぁ!?逃げようとしやがって…世話してやってんのは誰だ!」

 凄まじい剣幕で、管理人はヴィクスの首を絞めながら怒鳴る。息が詰まり、酸欠で頭がぼーっとし始めた。もう駄目だ、とヴィクスが意識を手放そうとした時、首を絞める力が弱まった。



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