ハッチを開けた瞬間に吹き荒れたのは、吹雪。





『さむいのは嫌い』




「こんなに寒い星だなんて聞いてないよ…」

 船から持って下りたマフラーを首にキツく巻きつけ、カブは体をぶるりと震わせた。
 ここはドコール星、この星の特徴といえばひたすらに寒い事。2人は市街に降り立ったのだが、彼ら以外はかっちりとダウンを着てニット帽などを被っていた。足元には分厚く雪が積もっていて、裸足のカブはJJの背中にしがみつく。カブと同じく、いつもの格好にマフラーを巻いただけのJJも、歯をガチガチと鳴らし真っ白な息を吐いた。

「ッチ、もっとちゃんとした服持っときゃ良かった」
「ねぇJ兄ちゃん、お金が無いのは分かってるけど先に服買わない?この先も必要だろうしさ」
「仕方ねぇなぁ…」

 カブの提案はごもっともで、JJはザクザクと雪を踏みつつ服を売っていそうな店を探す。なんとか凍死する前に店を発見し入店すると、店内の暖房によるぬくもりが2人を包み込んだ。奥から現れたふくよかな女店主は、2人を見るなり目を丸くする。

「あら!なんて格好してんだい!?」
「なんでも良いからとにかく寒くねぇ服をくれ、こいつの分もだ」
「まぁまぁ可哀想に…」

 その女店主はすぐに何着かの服を見繕い、数分後にはダウン等を着てすっかり防寒対策をした2人の姿があった。

「これで寒くないわね。僕、これ被ってなさいな。可愛い耳が霜焼けになっちゃあ大変だからねぇ」

 そう言うと、カブにオレンジ色のニット帽を被せる。満面の笑みを浮かべ、カブは礼を言った。

「ありがとう!」
「どういたしまして。あんたら、この星は初めてなんだね。服を持ってないって事は観光でもなさそうだし…」
「この星には人探しで来た。…こいつ見たことあるか?」

 携帯をかざし、今回追っている賞金首のホログラムを見せる。女店主はすぐにあぁ!と声をあげ、ポンと拳を叩いた。

「今日の朝早くに店に来たよ!まだ開店してないのにドアをしつこく叩いてさ、仕方なく開けてやったらあんたらと同じで寒そうにしてたねぇ」
「どこに行くとか言ってたか?」
「確か船を買うとか言ってたよ、すぐに発つんだとさ」
「そうか…カブ、急ぐぞ」
「うん。おばちゃん、ありがとう!」

 こうして2人は、再び吹雪の中にくり出した。








 広い倉庫の中には戦闘機の様な小型の船が数台、売り物として停泊していた。人々が値段の交渉をしている中を、JJとカブは縫うように歩く。

「お前はカフェで待ってりゃあ良かったのによ」
「だって船見たかったんだもん…あ、見て!S-15!16もあるよ!」
「馬鹿、今は船見てる場合じゃねぇよ…お、いたぞ」

 カブを制止し、JJは近くの船の影に身を隠す。少し先に、標的の賞金首が店員と口論になっていた。JJは銃を構え、徐々に間合いを詰めていく。

「アンドレ=ギルバートだな?」

 相手の後頭部に銃を突きつけ、JJは聞いた。アンドレ=ギルバートはゆっくりと深く頷く。

「【賞金首制度】の権限でテメェを宇宙警察に引き渡す。両手を上げて大人しく…」

 その直後だった、アンドレ=ギルバートは素早く振り返ると、両手でJJの手首を掴む。更に、ダウンの下から現れたもう2本の腕が、腹部に何発もの重いパンチをくらわせた。

「ぅぐ…ッ!」

 身構える余裕が無かったJJはその場に膝を着いてしまう。その隙に、アンドレ=ギルバートは逃げ出した。ざわつく客や店員を4本の腕で弾き飛ばし、出口へ向かって走る。だが突然、倉庫のシャッターが下り始めた。

「逃げちゃダメだよ!」

 シャッターの操作レバーを下げながら笑ったのはカブだった。だがその笑顔もすぐ消えてしまう事になる。アンドレ=ギルバートが飛びかかって来たのだ。カブは咄嗟に短い悲鳴をあげ、しゃがみ込む。だが、カブをアンドレ=ギルバートが殴り飛ばす前に、JJがその脇腹に突っ込んだ。体当たりされた衝撃で壁に叩き付けられ、怯んだ隙にJJがその顔面を蹴り付ける。その表情は不機嫌そのもので、もう一度蹴り付けようと足を上げた所を、カブが止めた。

「J兄ちゃん怒らないで!殺しちゃったら意味ないよ!」

 カブの言葉を聞き、JJは舌を鳴らしながら足を下ろす。痛みに呻くアンドレ=ギルバートの胸ぐらを掴み、ドスのきいた声で行った。

「大人しくしとかねぇと殺すぞ」











「多めに賞金貰えて良かったね」

 遅めの昼食を口に運びながらカブは笑う。JJはフンと鼻を鳴らし、咀嚼していたものを飲み込んだ。

「当たりめぇだ、情報を全部公開しねぇサツが悪い」

 アンドレ=ギルバートをこの星の賞金首受け渡し所に連行し、賞金を受け取ってきた2人だったが、それは決して穏やかなものでは無かった。受け渡し所が通常の金額を差し出した途端に、JJは机を蹴り飛ばしアンドレ=ギルバートの腕が4本あるという情報を非公開にしていた事についてのクレームをぶつけ、結局は必死に謝る役員から2倍の賞金を受け取り、その金でいつもより多少贅沢な食事をとっているのだ。JJの怒りがおさまったのもつい先程の話で、やっと平和になったとカブは安堵のため息を吐く。喉を通りすぎていくスープが温かく、吹雪で冷えきった体がじんわりと解れた。


『さむいのは嫌い』 END


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