──ジリリリリ!

 突然、目覚まし時計がけたたましい音をたて始めた。ベッドからもそりと這い出た腕が枕元をまさぐるが、手にぶつかった目覚ましが床に落ちてしまう。未だに鳴り続ける目覚ましを放置し、ベッドの中の人物は枕を頭に押し付け無理矢理二度寝する選択肢を取った、が。

──ジリリリリリリリリリリリ!

「あ゙ー…うっせぇ…」

 舌を鳴らし、再びもそりと腕が伸びる。その手には銃が握られていた。





『おはようのダイブ』





 タンタンタンッ、と軽快な音をたて、1人の少年が階段を上っていく。健康的な褐色の肌にふわりとした灰色の髪。そして頭には、髪と同じく灰色の毛をした獣の耳が生え、足の間では尾が揺れていた。少年は耳をある方向へ傾ける。その先にはドアがあった。中からは何も聞こえない。少年はため息を吐くとドアの前で立ち止まった。ドアをノックし、声を張り上げる。

「J兄ちゃーん?起きてる?」

 その問いかけに返事は無い。今度はドンドンッと乱暴にドアを叩く。

「J兄ちゃん!起きて!!」

 だがやはり返事は無かった。本来ドアは自動で開くはずだが、中からロックがかかっている為に開かない。少年はム、と口を尖らせ階段を降りていった。再びドアの前へやってきた少年の脇には、ノートパソコンが抱えられている。ドアの電子パネルにケーブルを接続すると、パソコンを開いた。画面からはいくつものウィンドウが浮き上がり、少年はそれに目を走らせながらキーボードを叩く。数秒後、ロックが外れたドアはプシューと音をたて開いた。

「入るよー」

 一応部屋の主にそう断り入室する。部屋の床には焦げた目覚まし時計の残骸が散らばっていた。ベッドからだらりと垂れた腕には銃が握られている。

「おはよー…」

 そっと、握られた銃を手から剥がし、パソコンと共にテーブルの上に置く。そして思い切り息を吸い込み、遠慮なしの大声で叫んだ。

「起きろー!!!!!」
「……ぐおっ!?」

 少年は叫んだと共に寝ている人物の上に思い切りダイブした。突然の腹部への衝撃に、寝ていた人物は飛び起きる。アイマスクをしたその人物を見上げ、少年は満足げに聞く。

「起きた?」
「…おかげさまで」

 アイマスクを取ることなく、その青年は大きなあくびを漏らした。寝癖だらけの髪は鮮やかなピンクで、それに反し顔色は悪い。

「着替えたら出てきてね!二度寝はダメだよ!」
「へーへー」

 適当な相槌ではあったが、相手が着替え始めたのを確認し少年はパソコンを脇に抱え退室した。青年はもう一度あくびを漏らし、ベッドから下り立ち上がった。着替えながらテーブルの上にあった小型のホログラムプロジェクターの電源をいれる。すると画面からホログラム映像が立ち上がり、ブロンドの美女が胸から上だけ現れた。

『おはようございます、スペースウェザーインフォメーションです。本日、超新星爆発は未確認の為ブラックホールの心配はありません。それでは気温をお知らせします。トール星、マイナス3度。地球、34度。ポルタント星…』

 天気予報を聞き流しながら、青年は黙々と着替える。プロジェクターを切り部屋から出たとき、携帯が電子音をたてた。ホログラムがたちあがった携帯を見て、青年は表情を変える事なく階段を下りていく。

「…なんだお前か、エド」
『よぉJJ!相変わらずムスッとしてやがるな!』

 青年──JJはその挨拶を聞き通信を切ろうとする、が相手はそれを止めた。

『あー待て待て!良い知らせがある!お前ら、今はどこにいる?』
「……今?」

 JJは暫し考え込む。が分からなかったらしく、ソファに座りパソコンを弄っている先程の青年に聞いた。

「おいカブ、今どこだ?」
「今はドコール星の近くだよー」
「…だってよ」
『ならラッキーだぜ!30万ガリオンの賞金首がその星にいるっていう情報が入ったから知らせてやるよ』
「確かな情報なら良いけどな」
『それはお前の目で確かめろよ!じゃ!』
「じゃあな」

 一連の会話を、カブは耳を傾け聞いていた。すぐさま検索にかけ、出てきた情報にざっと目を通す。

「賞金首の名前はアンドレ=ギルバート。昨日ドコール星に入ってる…確かな情報だよ」
「ならさっさとそいつ捕まえて、たまには良い飯食うか」
「やったー!」

 カブの歓声を背に、JJはコックピットへ向かう。シートに座ると、たくさんのモニターやスイッチが起動した。ハンドルを握り、JJは笑みを浮かべる。

「待ってやがれ賞金首」



 ブースターが唸り、機体が揺れる。広大な宇宙空間で、追う者追われる者のチェイスが始まる。


『おはようのダイブ』 END



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -