見世物小屋での毎日は、苦痛でしかなかった。確かに、最低限の食事は出るし、道の片隅で寝る必要はない。だが、それは自分が【見世物】であるからだ。客が見世物に対し金を払えば、小屋の管理をする者は苦労する事無くそれなりの金額を手に入れる事ができる。逆に、客に飽きられてしまえば容赦無く殺される事は、見世物にされている者なら良く知っていた。



「さぁて、てめぇら今日もがっぽり稼いでくれよ」

 いつもと同じように、管理人が見世物達の檻へとやって来る。見世物の大体は、見た目が異質な子供だった。小さな羽が生えた者、獣の尾や耳がある者……見た目が少し普通の者と違うだけで、生き物として扱われず、客からの野次や罵倒に堪えなければならなかった。ヴィクスも例外ではなく、魚人の子供として、小屋で一番の見世物となっていた。

「見ろ!水かきがある!」
「うぇ、あんな魚は食いたくねぇな」
「もっと泳いでみせろよー!」

 客からの野次は、子供であったヴィクスの心に毎日傷を付けていった。満足な食事を与えられていないせいで身体はやつれ、管理人から時折受ける暴力は多くの痣を残す。わざとそうする事で見た目の異様さを一層際立たせるのが狙いだ。気持ち悪ければ悪いほど、客はコインを投げた。

 そんな毎日に、少しの変化が起きた。ある日、ふと客へ視線を向けると、笑い声をあげる客の後ろの方に男が立っているのが見えた。少し長い銀の髪を持つその男は、無表情でそこに立っていた。こちらを見ているかどうかは分からない。男が目隠しをしていたからだ。ここにいるという事は見世物を見に来る以外に無いのだが、その男はどうやら違う様で、手帳に何か書き込むと最後まで無表情のまま、ヴィクスの前から立ち去った。


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