黙って彼に従おう。






『彼に触れる為の許可』








 何故だか分からないが、その日はどうやら機嫌が悪かったらしい。きっと自分が地下室に顔を出す前にヴィクスと喧嘩でもしたのだろう、とクロウは頭の中で考えていた。そんな彼も、つい先程こう叫ばれていた。

「馬鹿クロ!もうこっち来んな!」

 元からイライラしていたらしい彼の逆鱗に、どうやら知らぬうちに触れてしまったようだった。残念な事にクロウには心当たりが無い。だがそこで何か叫び返す事をこの口は許さなかったし、第一彼に対して怒りは抱かなかった。こんな事はいつもの事なのだ。
 そして今、クロウは彼に言われた通り、彼に決して近付かなかった。ただ部屋の隅に立ちソファの上でいかにも暇そうにしている彼の様子をじっと見つめる。そんな状態は数十分前から続いていて、その間に彼はどうにか1人で暇を潰そうと奮闘していた。本を読もうと大きな本棚に目を通すが手を伸ばすことは無く、チェスをしようにも1人ではゲームにならず、絵を描こうにも何も浮かばない。そんな事を散々繰り返し、そして今の彼と言えばソファでクッションを抱え、ゆらゆらと独特な尾を揺らしている。やる事が無くなってしまったらしかった。ふと、そんな彼と目が合う。彼はすぐに目を反らしたが、クロウはそのまま視線を動かさなかった。するともう一度目が合う。今度は彼の方も視線を外さなかった。お互いに数十秒見つめ合う。というよりは、睨みつけられたと言う方が正しいかもしれない。こちらから視線を外せばどうなるかと考え始めた時、向こうが動きを見せた。

─バフバフ

 ソファを何か物言いたげに叩き始めたのだ。クロウはそれが何を意味しているのかをすぐに理解し、じっと目を離そうとしない彼の隣に座る。すると彼は、クッションを抱えたままクロウの膝に頭を預けた。

「………暇」
「……」

 ぶっきらぼうに呟かれた言葉へ相槌をうつ代わりに、そっと頭を撫でる。しばらくそうやって撫でていると、余程心地よかったのか、彼は眠りについてしまった。
 少々わがままで、寂しがりな彼の頭を撫でながら、クロウもゆっくりと、瞳を閉じた。





「クロウが甘やかすから、あいつのわがままに磨きがかかっちまうんだ」(ヴィクス談)



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