ヴィクスは今回の事件の報告書を書くために地下室に残り、ミシェル、シェイド、メア、クロウの4人で夜の街に繰り出した。角と尻尾を隠すために黒いローブを纏ったメアは未だにクロウに担がれたままで、不機嫌そうに頬を膨らませる。

「何でこんな事になっちゃったかなぁ」
「仕方ないだろう、これが俺たちの仕事だ」

 担がれたまま、メアはブツブツと不満をこぼす。その不満をきちんと聞いてやりながら、シェイドは辺りを見回した。

「よし、ここで良いだろう」

 それは月明かりも届かないような暗い路地裏だった。メアを下ろすと、クロウはズズ、と闇に溶けていった。地面に座り込んだメアを見下げ、シェイドは訊ねる。

「嘘泣きなら得意だな」
「あんまり嬉しくない」
「メア、いい加減に機嫌を直せ…」
「機嫌を直してシェイドさんの言う事を聞いたら、僕が帰りにアイスクリームでも買ってあげますよ」
「ほんとに!?なら機嫌直った!」

 ミシェルの提案を聞き、メアはあっさりと笑顔になった。呆れて笑いながら、シェイドは次の指示を出す。

「嘘泣きでも良いからとにかく悲しめ、じきにナイト・ウォーカーが現れるだろう。お前は絶対に手を出すな。やりすぎるからな」
「はーい」
「ミシェル、俺たちは少し下がっていよう」
「はい」

 シェイドとミシェルは曲がり角に身を隠す。メアはわざとらしく、こほん、と咳払いをしてから、膝を抱え嘘泣きを始めた。その様子を見ながら、シェイドはミシェルを背後に隠す。

「ミシェル、これから境目との境界線があやふやになる。俺の後ろから離れるな。それと、何かに話し掛けられても返事をせず、ついて行くな。絶対にだ」
「分かりました…」

 その時、辺りが一層暗くなった。メアの周辺の地面から、ズルズルと人の形をした闇が現れる。

『どうしたの、何が悲しいの、どうしたの』

 メアは答えず嘘泣きを続ける。すると更に多くの闇が現れ、メアを取り囲んだ。ゆらゆらと揺れる影は人の形をしていたが、目が後頭部や手の平にあったり、口が複数あったりと、異形の姿だった。そんなナイト・ウォーカー達をシェイドの肩越しに見ていると、誰かが耳元で囁く。

『おいで…』

 とっさに振り返るが誰もいない。先刻シェイドが忠告したのはこの声の事だった。ミシェルは再び前を向き、声を聞くまいと神経を集中する。目の前では丁度、クロウが大鎌を振りかざしたところだ。

『辛い、辛い……』

 また何者でもない声が囁く。今度は振り向く事なく、ミシェルは耳をふさいだ。だが声だけが何故か聞こえてくる。夢の中で目を閉じても、風景が見えてしまうかのように。

『何が欲しい?何がしたい?』
『ミシェル…ミシェル…』
『私たちが叶えてあげる』
『おいで、おいで…』
『早く早く、私たちと一緒に来て…』

 声はやまず、それどころかますます大きく、多くなり、ついには目の前を闇が支配していく。シェイドに助けを求めようとも、声が出ない。

『貴方が欲しい、ミシェル』


 その声を最後に、ふっと意識が途切れた。



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