俺は旦那のもの、そうだろ?
『イイコじゃなくてごめん』
そう唐突に言葉を投げてみる。旦那は俺に視線を向けることはなく、一瞬ペンを走らせる手を止めただけで、また書類と仲良くし始めた。返事は元々期待していなかった俺は、ソファに横たえた身体を捻って背骨を鳴らす。カリカリと文字を書く音が心地良く、ゆっくりと瞼を下ろした時だった。
「また馬鹿な事を考えているだろう」
「ンぁ?俺?」
「でないとあんな馬鹿な確認はしないはずだ」
「アぁ……んンー……」
やっぱり見透かされてた。旦那にはいつも全部お見通しだ。
「旦那の為にならいつでも使ってくれよ、俺の、」
「黙れ」
一番大事なところで言葉を遮られる。そのまま旦那は言葉を続ける事はなく、部屋にはカリカリとペンの音だけが続いた。暫くして、旦那が今まで書いていた書類を束にして俺に差し出す。ソファから身を起こしてその書類を受け取り、今度は俺がこの書類を処理するために、この部屋を後にしようとした。
「ミミック、」
俺の背に、旦那が言葉を投げかける。振り返ると。旦那と久しぶりに目があった。
「お前は、お前の命は俺の物だと、そう言ったな」
「アァ」
「ならば、その命をお前の意思で使うことは許さん。俺の指示なしに死ぬ事、無駄に死ぬことは許可しない。分かったか」
あぁ旦那、ごめんな。
「分かッたよ。旦那の命令は絶対だ」
背後で指をクロスしながら、俺は笑った。
『イイコじゃなくてごめん』Fin.
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