正直なところ、お手上げだ。





『マイ・パーフェクト』





 近頃、カブの様子がおかしい。おかしいというか、なぜか怒ってる。カブってのは俺の連れの事で、朝は起こしに来るし、得意のハッキングが賞金首狩りに役に立つこともある。俺の知り合いの中でずば抜けて素直で、まあ、可愛い奴だ。そんなカブが、最近トゲトゲしくなった。朝、俺を起こしに来るのは変わらないが、以前と違ってぶっきらぼうだし、食事に行くかと誘っても、あやむやな返事しか返さない。部屋にもこもりっきりだ。そこまで干渉することでもないし、特に何か対策をしたわけではないが、やっぱり気になる。


『ふーん、カブが反抗期ねえ』
「そうなんだよ、別に困ってはねぇけど、なんか気になるだろ?」

 画面の向こうでピアスを弄ってるエドに、カブについて話してみた。エドは興味があるのかないのか、ピアスをいじりながら相槌を打つ。しばらく無言の後、エドがいきなり声をあげた

『そういえばカブって狼だったな?』
「あ?そうだけど」
『つまりはわんころだろ?』
「それ聞かれたらまた機嫌悪くするって……」
『とにかく、一応お前はカブのアニキ的な存在な訳だよ、わんこにとっちゃご主人様ってやつ』
「主人ってつもりではねぇよ……」
『まぁまぁ、極論を言うとだな、お前はカブに愛情を注いでんのかって話よ』
「………はぁ?」

 意味不明な事をエドが言い出した。愛情?俺が?カブに?

「んなもんあいつはいらねぇだろ」
『そういうとこがダメなんだよお前は!どうせあれだろ、カブが怒ってる理由を本人に聞かずにほったらかしてるだろ』
「あぁ……」
『俺と通信なんかしてないでカブの部屋行って来い!じゃあな!』

 ブツ、と接続が切れて、画面が暗くなり俺の顔が映る(すげぇ間抜けな顔してた)。エドが言うには、とにかくカブとコンタクトをとれって事みたいだが……正直どうすれば良いのか分からない。まぁ、確かに、原因を本人に聞くのが一番良いんだろう。何て話をするのか具体的な考えもないまま、カブの部屋まで向かう。中からは物音一つ聞こえない。と、思いきや、時々ため息のようなものが聞こえた。何か悩みでもあんのか?
 とにかく、ここで突っ立ってても変わらない。何もビビることはない、と俺はドアを叩いた。

「カブ、入ってもいいか」
「……んー…、」

 また曖昧な返事しか返さない。カチャ、とドアのロックが外れる音がして、自動的に開く。カブは、こっちに背中を向けた状態でベッドに寝転がってて、俺が近寄っても見向きもしない。ただ、俺の動きを探るように耳がぴこぴこと揺れるだけで、ベッドサイドに腰掛けても、少しだけ尾が動いたくらいだ。さっそく、俺は本題に入る事にする。

「カブ、」
「……………なに」
「……なにが気に食わねえんだ?」
「……なんでもない」
「なんでもない事ねえだろ。最近おかしいぞ、お前」
「…………おかしくないもん」

 ああ、めんどくさいぞ、こいつ!

「おい!!」

 一番ダメなパターンって分かってても、思わずイラッとした。なんの考えもなく大声を上げたら、カブの肩がビクッと揺れた。こうなったらヤケだ、俺流で話を聞きだしてやる。背中を向けたまんまのカブの肩を掴んで、無理矢理こっちを向かせた。少し泣きそうな顔をしてるが、そんなもん俺の知った事じゃない。

「お前な、言わなきゃ分かんねえって最初に言っただろ!気に食わねえ事があるなら言え、体調が悪いとかそんな理由なら尚更言え。お前が最近トゲトゲしてやがんのは何でだ、カブ」

 俺が話し終わるまでに泣くかと思ったが、カブはぐっと堪えたようで、目が潤むだけにとどまった。俺を見上げて、少し迷うように目を泳がせた後、カブは口を開く。

「……自立しようと、思って」
「自立?」
「僕、ずっとJ兄ちゃんに頼ってばっかりだったから、ちょっとは1人でも平気にならなきゃって思って……っ、でも、やっぱり寂しくて、無理矢理我慢してたら、途中から訳分かんなくなっちゃって……っ」

 さすがに、途中からは泣き始めた。それでも、なんとか止めようとしてんのか、目を擦って涙を誤魔化す。

「うぇ、ご、ごめんなさい。泣いちゃダメなのに、ううっ」
「誰も泣くなってルール設けてねえよ……怒鳴って悪かった」

 パーカーの袖でカブの目元を拭ってやる。カブは、日頃からちょっとやそっとじゃ泣かねえやつだが、今回は少し溜め込んでたみてえだ。

「で?自立しようと思ったのは良いけど、なんであんなにトゲトゲしてやがったんだ?」
「じぇ、J兄ちゃんのマネ」
「……は?」
「ぼ、僕にとって憧れはJ兄ちゃんだから、J兄ちゃんの真似したら、ちょっとは自立できるかなって……」
「待て待て、俺の真似?今までの態度がか?」
「うん」
「俺ってあんなにぶっきらぼうなのか?」
「う、うん。返事とか、いつも適当だし……僕は全然平気だけど……」

 ああ、こりゃあ、俺も色々と改善する必要がありそうだ。

「俺は俺!2人もいらねぇから、お前はお前で良いんだよ!!」





『マイ・パーフェクト』 END



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