小さいからといって、舐めてかかってはいけない。もしかしたら彼は、とんでもない特技を持っているかも。





『NO ENEMY』





 そこは、もはや騒音、と言ってもいいほど大きな音が鳴り響き続ける空間だ。数十台のゲーム機がそれぞれの音を鳴らし、それを娯楽として楽しむ男女の笑い声が共鳴する。その空間に足を踏み入れて暫くは音の大きさに耳を塞ぎたくなるが、ゲーム機を覗き込むうちに、耳は順応し音の大きさが気にならなくなる。ゲームセンターは、今や誰もが楽しめるメジャーな娯楽施設であった。今日もまた、1人の少年が一台のゲーム機に近寄り、1PLAY:100、という表記の横にあるタッチパネルに、デバイスを翳す。ポロロン、と小気味良い音が鳴り、大きな画面にGAME STARTの文字が踊る。手元に備え付けてある銃のコントローラーを手に取り、少年は意気揚々と構えた、だが。

「はいはい、お子様は退いてようかー」

 ひょいっ、と持っていたコントローラーを取り上げられる。あっ、と声をあげ少年が振り返ると、大きな1つ目を持つ、二足歩行のトカゲのような容姿をした若者が3人、ケラケラと笑いながら銃を弄んでいた。
自分よりも一回り二回り大きな体を持つ3人だが、少年は臆すること無く向き合う。

「今は僕の番だよ!」
「ちげぇよ、この機械はずーーーっと俺らが使ってんの。勝手に俺らのモノを使おうとしたお前が悪ィの」
「そんなの変だよ!だいたい、僕のお金だし!返して!」

 少年はコントローラーを取り返そうと手を伸ばす。しかし3人組はコントローラーを高く上げ、懸命に飛び跳ねる少年を嘲笑うと、ゲーム画面に向き直る。無視をする気のようだ。どう考えても理不尽だ、と少年は頬をふくらませる。普通ならばここで諦めるのだろうが、如何せんこの少年は、普通ではなった。


 少年はその場を立ち去ったかに思えた。しかしすぐ近くのゲーム機の影に身を隠し、背負っていたバックパックの中からノートパソコンを取り出す。ディスプレイを立ち上げると、無数の文字や数字が踊るウィンドウがいくつも浮かび上がった。少年はいくつものウィンドウに目をやりながら、キーボードを叩き始める。見た目の年齢にそぐわない速度で打ち込まれる文字は、文章ではなく何かのコードのようだ。
 その時、ゲームセンターがざわりと、いつもの喧騒とは違う騒ぎになった。ゲートに1体の大きなアンドロイドが現れたからだ。逆三角形の機体を揺らしながら、アンドロイドは人を掻き分け進む。そのボディには、宇宙警察のシンボルが表示されている。宇宙警察が人件費削減のために製造した、パワー型のポリスアンドロイドだ。
 少年はぱっと顔を上げ、ゲームセンターに突如のして現れたそのアンドロイドを確認すると、ニヤリと口角をあげる。

「それじゃ、発声機能とリンクして……」

 ヘッドセットを付け、少年は小さく咳払いをひとつ。息を吸い込み、声を上げた。

『補導対照ヲ確認!補導対照ヲ確認!』

 突然、アンドロイドがアラームを鳴らしながら、少年から奪ったゲーム機に夢中になっていた3人組に近づく。振り返った3人はアンドロイドを見上げと、いかにもマズい、といった様に目を見開く。

『ゲームセンターヲ独占シテイル3人トハ、君達ノコトカ!』
「おいっ、通報でもされたのか!?」
「こ、これくらいの事でポリスが動くわけねえよ!」
「な、なんなんだよ!?」
『答エロ、ルールヲ守ラズニ好キ放題シテイルノハ君達カ?』
「う、うるせー!」
『警告ヲ無視、警告ヲ無視。規則二則リ君達ヲ署マデ連行スル!』

 そう宣言し、アンドロイドは大きなアームを伸ばし3人の服の襟元を掴み上げる必死の抵抗を試みる3人だが、パワー型のアンドロイドが誇るのは勿論その握力や戦闘能力で、少し叩かれようが銃で撃たれようがビクともしない。

『ハハハハ、抵抗シテモ無駄ダゾ』
「ちくしょー!離せ!」
『大人シク連行サレロ、』

「運が良ければお尻ペンペンの刑ですむぞ!」

 変わらずにゲーム機の裏に座り込みキーボードをタイプする少年が、上機嫌に言う。アンドロイドの発声機能とリンクした為に、少年が発した言葉はヘッドセットのマイクを通して、アンドロイドの音声として再生されていたのだった。先程の仕返しが出来た事に満足げな少年が、そろそろアンドロイドのハッキングをやめようとした時、誰かが彼の襟首を掴み上げた。

「おら、カブ!勝手に1人でウロチョロしてんじゃねえ!」
「え、わっ、J兄ちゃん!」
「ったく、探させやがって……」

 少年――カブが慌ててパソコンを閉じると同時に、若者三人を捕まえていたアンドロイドがダウンする。JJは騷ぎに顔を上げると、アンドロイドを見て首を傾げた。

「なんだあれ、なんでポリスがいるんだ?」
「さっ、さぁ、知らないよっ」
「まぁいい、とにかく帰るぞ。次いなくなったらケツぶっ叩くからな!」
「そ、それだけは嫌だっ」

 JJに担がれ、小さな一流ハッカーはゲームセンターを立ち去った。“謎の不具合を起こして勝手に動き出したアンドロイド”を残して。




『NO ENEMY』 END



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