シェイドが言った途端、ミシェルの両足首を何者かが掴んだ。驚いて見ると、クロウの継ぎ接ぎの手が、しっかりと足首を握っていた。いつの間にか足元に広がっていた闇の中から伸びたクロウの腕は、そのままミシェルを闇の中へ引き摺り込もうと、下へ引っ張る。

「え?えっ?」
「抵抗しなくて良いのか?引きずり込まれると簡単には帰ってこれんぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!どうすればいいんですか!?」
「自分で考えろ」
「そんな…っ!」

 そう言葉を交わしている間も、ミシェルの足はズブスブと闇の中へ沈んでいく。まるで底なし沼のように、抜け出そうと足を動かせば動かすほど、意に反して沈んでしまう。

(しゅ、集中と、感情の操作……!)

「は、離してください!」

 言葉の通りになるなら、とミシェルは口に出してみる。だが何かが起こるわけでもなく、その後何度も様々な言葉を口にしても結果は変わらず、気付けば腰あたりまで沈んでしまっていた。引きずり込まれたくはない、そう心から願っているはずだが、体が沈めば沈む程、マイナスな考えばかりが浮かんでしまう。心なしか、体も少しずつ冷えていくようだった。しかしシェイドは顔色を変える事もなく、淡々と告げる。

「飲み込まれるぞ、ミシェル」
「わ、分かってます!でも何も起きな、うわっ!」

 思いきり足を引かれたのか、上半身も一気に闇へ沈んだ。視界が真っ暗になったと思いきや、誰かに肩を掴まれる。そのまま、ぐいと上へ引っ張り上げられた。

「いきなり会得するとは思っていない。ゆっくり慣れていけばいい」

 シェイドの"影"が、ミシェルを引っ張り上げたようだ。ふわりと床に下ろされ、ミシェルはその場にへたり込む。闇に飲み込まれたのは一瞬のはずだったが、ガタガタと体が震えてしまう。震える肩を肩を抱き、体を丸めた。

「さ、寒い……」
「温かいココアでも飲めば治る。クロウ、彼に毛布と温かいものを。必要なら暖炉に火をおこしてやれ」

 いつの間にか姿を現していたクロウはシェイドの指示にこくりと頷くと、ミシェルの肩を叩きソファを指差した。促されるままにソファに深く腰をおろすと、ばふりと分厚い毛布を投げられる。身を案じているのだろうか、クロウはミシェルの顔を覗き込み、青と赤の目でじっと見つめる。

「……まだまだ時間はかかりそうですか、強くなるには」

 ミシェルが苦笑を漏らしながら聞くと、クロウは変わらずの無表情で、ゆっくりと頷いた。



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