「鼻、大丈夫なのか?」
「あー、えっと、日本語で、話してください」
「お、なんだよ、日本語出来るのか」
「まだまだ勉強中です」
「ふーん」
「この前は、ありがとうございました」
「ん?あぁ、ペンの事か?良いよ、あれくらい」
「いえ!ぜひ、お礼をさせて下さい!コーヒーをご馳走しますので!」

 ガシッと手を握り、ミシェルはじっと昴の顔を見つめる。手を離す様子がないので、昴は思わず頷いた。

「わ、分かったよ」
「そういえば、自己紹介がまだでしたよね。すみません。僕の名前はミシェル=エリオットです」
「俺は、終夜昴」
「スバル、これからよろしくお願いします!スバルはこの後も講義ですか?」
「ん?あー、いや、俺はもう帰る」
「そうなんですか…僕はまだ講義があるので、コーヒーはまたの機会ですね」

 しゅん、とミシェルは目を伏せる。教室を教えたあとの喜びのハグといい、なんとも感情表現の豊かな奴だと、昴は呆れたように笑った。

「ミシェル、そろそろ手を離し、」
「すーーーばーーーるーーー!」

 突然、遠くの方で昴を呼ぶ声が響いた。昴は素早く振り返り、ゲッと声をあげる。

「両刃!?なんでこんなところに!」
「あ!昴発見なのだ!」

 昴をビシッと指差し、喜びの声をあげたのは、1人の少女だった。黒い髪は短く、頭頂部にくるりと立ち上がった癖毛がある。両刃と呼ばれたその少女は、ミシェルを見ると首を傾げた。

「お前、初めて見る顔だ。昴にも友達がいたのだな!」
「おい、聞き捨てならないぞその言葉」
「彼女は?スバルのガールフレンドですか?」
「なっ、ちっげぇ!」
「違うんですか?妹…にしては似ていませんね」
「うーん、なんというかちょっとややこしいんだよ…」

 両刃が死神であり、自分が死神親善大使であることを容易に話してはいけないだろうと、昴は言葉を濁す。

「私の名前は黒澤両刃、両刃でいいのだ!」
「ミス・モロハですね、わかりました」
「ところで昴!早く帰るぞ!帰ってゲームをするのだ!1人だとつまらんからな!」
「ちょっ、引っぱんなって…!ミ、ミシェル、じゃあな!」
「はい、また明日、次こそコーヒーをご馳走させて下さいね」

 ひらひらと手を振り、ミシェルは賑やかに言い合う2人の背中を見送った。




 ミシェルと別れ、昴は両刃と共に大学を後にする。実はまだ少しジンジンと痛む後頭部をさすり、変な留学生と知り合ったものだと首を傾げた。そんな昴の少し前を歩く両刃が、ピタリと立ち止まる。

「昴、あの青目の男、何者なのだ?」
「あいつか?うちの大学に留学しに来てるらしい。まともに喋ったのは今日が初めてだ」
「そうか」
「なんだよ、そんなこと気にして」
「………あの男、ただの人間か?」
「は!?何言ってんだよ、当たり前だろ」
「…あの男が昴に直接危害を加える心配は無いと思う、が、気をつけるのだ」
「?よ、よく分かんねえけど、分かったよ」

 昴が頷いたのを見て、両刃は「それならいいのだ!」といつもの笑みを浮かべる。彼女は死神の鋭い感性で見抜いていた、ミシェルがただの人間では無いこと、"翼をもつ者"であるという事を。

「あの男は少し、眩しすぎる」




『天使と死神の狭間』 終



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