ふゆがきた ふゆがきた

ぼくたちはなにもしらずに

いつか ゆきにうもれるから





『熱を孕んだ白い息』





───もっと降れ
   もっと降れ




 息を吐けば、視界は磨り硝子の様に濁った。空から降る白い結晶が視界の悪さに追い討ちをかける。
 気温がちくりと体の末端を刺激した。鼻先、耳、頬、指先、外気には触れていないはずの爪先まで。
 雪はあまり、好きではない。

「…………っくし」

 寒さのあまりくしゃみをしてしまった。前を歩いていたデリが振り向いて、どこか癪に触る笑みを浮かべる。

「風邪ひいちゃった?」

 華奢だからそうやってすぐに風邪ひいちゃうんだよ、と笑いながら立ち止まり、俺が隣まで歩いて来るのを待つ。華奢だと言われた事に少し苛立ったが、息を吸うとあまりに肺が冷えたのでその苛立ちも幾分か消えた。

「上着、着ないの?」
「少し濡れてしまったからな。着ても冷えるだけだ」

 肩に掛けた上着を揺らしながら後ろを振り返る。積もり始めた雪の上に、朱い斑点がポツリポツリと並んでいた。
 それを何となく数えていると、デリが思い出したように口を開く。

「ねぇ、今日、なんの日か知ってる?」





───積もるのはいつ?
   溶けたりしない?





「ンあ…?寒いと思ッたら雪かァ?」

 白い結晶が視界に映ったのと同時に、ミミックは顔を上げた。
 はらはらと止むことなく降り注ぐ雪に舌打ちを鳴らす。

「さみィのは嫌いだっつの…」

 肩に力を入れぶるりと震えた。
 一度寒いと感じれば、ますます冷気が肌を刺激する。
 周りを見渡せば色鮮やかなイルミネーションばかりで、それに照らされ雪がさらに鮮明になった。

「先輩、雪っすよ!」
「分かッてるッつの…」
「やべぇテンション上がるー」

 笑いながら双子は空を見上げる。
 自分には、雪を見てはしゃいだ記憶は無い。雪はただ、この身を凍らせ、己の孤独を知らしめるだけのもの。そう、思っていた。

「先輩!何か奢って下さいよ」
「なンでだよ」
「いいじゃないっすか、お願いですよー」
「ッたく…」

 仕方ねェなァ、と笑いながらまた空を見上げれば、先程とは少し、雪が違って見えた。





───嗚呼、寒くなってきた
   睫が凍る、息も白い





 突き刺すような寒さだ。
 二人分の二酸化炭素が白い靄となり空気中に溶け、消える。
 止めどなく舞い降りる雪を背景に、それをただ眺めながら会話もせず、二人並んで呼吸を繰り返す。
 早朝の駅には誰もいない。電車さえも少なく、アナウンスは時折雪に反響するだけだった。

「……シープス」

 隣で同じく雪を眺めていたレイヴが唐突に口を開いた。
 一瞬、声の出し方を忘れそうになったが、体は思考に従順だ。

「なんですか?」
「指、赤い」
「あぁ、そうですね…。少し悴んだみたいです」

 指先を口元に持って行き、少しでも温まればと息を吐き出した。空気中に靄が消えていく。

「寒いですね…」
「う、ん」
「雪、このままだと積もりますね」

 シープスの言葉に、レイヴは空を見上げた。
 灰色の空から、音もたてずに雪が降りてくる。そして、音もたてずに地面へ降り立つ。
 気温は、下がるばかりだ。





─限りなく、白くなる
 気付けば何もなくなると良い
 人が幸福を噛み締める日
 それを、凍らせる事が出来たら

─限りなく、白くなる
 ニセモノだらけの、嘘の世界






『熱を孕んだ白い息』Fin.

冬に閉ざされていく貴方に
最大の愛と感謝を
─────Merry Christmas.





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