『こちら、H700!現在ZONE-02にて逃走車両を追跡中。ZONE-02にて逃走車両を追跡中!このままでは追い付けない。更に標的の銃器所持を確認した。至急応援を頼む!標的は─…』
鮮やかな青の髪が二名。
この街の問題児、レフとライだ!
『それでも世界は廻るから』
「鬼サンこーちら、ココまでおーいでー!」
ケラケラと笑い声を上げ、ライは遥か後方にいる鬼に舌を出した。風でなびく前髪を横に撫でつけ、バイクを走らせるレフを振り返る。
「なぁレフ。あいつら全然追い付いてこねぇよ」
「向こうは車だからな。バカじゃね?」
「発砲もしてこねぇしよー」
つまんねぇ、と眉間に皺を寄せ、ライはまた後方を振り返る。
二人の乗ったバイクを追跡する車は三台。先程より近付いてはいるが、まだ後方の彼方にいるのには変わりなかった。
ライは面白くないという風に舌打ちを一つ鳴らし、ホルダーから拳銃を取り出す。肘でレフを小突きパトカーを顎でしゃくった。
「あいつらに喝いれてやろうぜ」
「スピード落とせって?」
「そーゆーこと」
「OK、ちゃんと狙って撃てよ?」
「任せとけって!」
自信満々にそう答えパトカーを睨み付ける。徐々に車体との距離が縮まり、それを運転する警官の顔が見えてきた。彼らとはもはや顔見知りだ。
十分にパトカーが射程距離に入ったと同時に、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
───ガァンガァンッ!
銃声が街に轟く。一発目は外したが、二発目は一台のパトカーのタイヤに命中した。タイヤは割れ、パトカーのスピードはみるみる落ちていく。中に乗っている警官はハンドルを叩き心底悔しがっている様な仕草を見せていた。
「うっし撃破ぁ!」
スピンを繰り返し減速していくパトカーに中指を立てながら、ライは歓声を上げる。その歓声を聞いて、レフはちらりと後ろを向いた。
「油断すんなよ、まだ二台残ってんだからな!」
「分かってるって…ちょ、前!」
焦りを顔面に貼り付けて、ライは前方を指差した。振り向くと、目の前には大型トラックが赤信号に従い停車している。
「やっべ……!」
驚いたレフは慌ててハンドルを切る。車体は傾き、タイヤはキュキュキュと音を立て煙を上げた。
一瞬、転倒するかと思われたバイクは見事に大勢を立て直す。多少減速はしたものの、また加速をし大通りを外れた道に入った。
「っぶねー。転けちまうとこだった」
「お前バカだろ!スリルありすぎだっての!」
ケラケラと笑い声を上げながら、ライはバシバシとレフの肩を叩いた。
急に道を曲がったからか、パトカーは追い付く事が出来ず、はるか後方でサイレンを響かせている。
歓声を上げながら二人で手を叩き合った時、腰に下げていた無線がザザザ、と雑音をたてた。
「…ッオイ……フ、ライ!」
聞き慣れた声が聞こえる。どうやらその声色には怒りが含まれている様で、ライは急いで無線を手に取った。
「はーい、こちらライで…」
『馬鹿野郎ッ!街中で発砲すンなッていつも言ッてンだろが!』
ライの言葉を遮り、無線の向こうの人物は怒鳴り声を上げる。いきなりの大音声に無線を耳から遠ざけた。
「先輩、そんな怒んないで下さいよー。やむを得ずの発砲ですって」
『なァにが「やむを得ず」だァ?思いっ切りオメェらから狙撃してたクセによく言うなァ?』
「え、てかなんで先輩知ってんすか?」
『バッカ、ニュース見たら大抵お前らが映ッてンだよ!』
あぁ、成る程。とライは笑った。だとすれば、これ以上逃げていると捕まる可能性が高くなる。カオス街の住人の殆どが自分たちの顔を見てしまっているのだから、通報を繰り返されいつか追い詰められるのがオチだ。
「んじゃ、そろそろ大人しく帰りまーす」
『やッとその気になッたか。ちゃンと人目避けて帰ッて来いヨ』
「はーい」
ブツ、と音をたて無線が切れた。無線を腰に戻し、ライはニヤリと笑みを浮かべる。
レフはバイクを止め、目の前に広がる光景に口笛を吹いた。これ以上は行かせまいとする様に、数十台のパトカーが道路を塞ぎ、その後ろでは、同じく数十人の警官が拳銃をこちらに向けている。
「んじゃ、逃走劇の続きと行こうぜ、ライ」
「オーケー。それじゃあ第二幕は何を見せてやる?」
「そうだなぁ……。銃撃戦なんてどうよ?」
「上等!」
さぁさ皆様お立ち会い。お楽しみはまだまだこれから。
活劇は幕を上げたばかり。物語は加速し続ける。
だけど、結末がやってくる時はもう決まってるんだ。
それは世界が止まる時!
『それでも世界は廻るから』Fin.
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