どこに行くのか聞かされないまま、ミシェルはシェイドの少し後ろを歩いた。暫くして、あれ?と辺りを見回す。

「クロウがいませんよ?」
「あぁ、あいつはあの地下以外ではあまりこちらに出たがらない。潜っているだろう」
「こちら、と言うのは、この世の事ですか?」
「この世…そうだな。クロウは死んでいる訳では無いが、生きているとも言えない。クロウはこの世と地獄の境目の住人だ。いつもはそこに居て、必要な時に姿を現す」
「どうしてあの地下では出てくるんです?」
「あの部屋は境目に限りなく近い環境にある。俺の影達も境目の住人達だからな、境目と似たような所でないと落ち着かんのだ」
「なんだか…夢みたいな話ですね」

 きっと昨日の夕方までの自分が聞いたなら、それは本の中だけの話だと信じなかっただろう。が、実際にミシェルは昨晩、得体の知れない化け物に襲われた。その後は魚人やサタンの息子や境目の住人に出会い、今は影を操る男と一緒に街を歩いている。皆が同じように信じている現実に溢れた明日はもう来ないのだ。
 ふと、人だかりが出来ているのに気が付いた。パトカーが何台か停まっていて、警官が黄色いテープを張り野次馬を規制している。

「何か事件でもあったんでしょうか?」
「そうだな。その事件の犯人を捕まえるのが俺達の仕事だ」
「えっ?」
「ついて来い」

 そう言って、シェイドは野次馬を掻き分け現場へと入っていった。ミシェルもそれに続くが、テープをくぐろうとした所を警官に止められる。

「ダメだよ一般人は現場に入っちゃあ」
「あの僕…」
「彼は俺の連れだ。入れてやってくれ」
「え?あぁ、はい」

 シェイドに言われ、少し怪訝な顔をしながらも、警官はミシェルを通した。野次馬と警官の視線を背中に感じながら、シェイドに手招かれる方へと歩を進める。事件現場は路地らしく、狭い中で人が忙しなく動き回っていた。

「おぉ、バリー来たか」

 1人の男がシェイドに気付き近づいて来る。長身なその男の目元には深く皺が刻まれ、苦労してきた事を物語っていた。シェイドは薄く笑みを浮かべ、その男と握手を交わす。

「久しいな」
「おおよ、相変わらず顔色わりぃな」
「お前こそ相変わらず老けている」
「ハハッ、元気そうで安心した。………ん?そいつは?」

 ふと、男はミシェルに気付き肩眉を上げる。シェイドはミシェルを軽く振り返りつつ紹介した。

「ミシェル=エリオットだ。今回の現場検証に付き合う」
「初めまして。ミシェルです」

 ミシェルは言いながら手を差し出す。その手を握り返し、男は名乗った。

「俺はギデオン、刑事だ。初めて見る顔だが…チームの新入りか?」
「チーム?」
「俺たちはナイト・ウォーカーと呼ばれる"この世にいてはいけない者"…例えば天国にも地獄にも逝けずさ迷う魂や、それらが集まって生まれた化け物などを処分する為に働いているチームだ。こうやって希に警察の手伝いもする」
「僕を襲った悪魔もナイト・ウォーカーなんですか?」
「恐らくはな。もし正規の悪魔だとしても、悪事を働いているなら処分対象となる」

 シェイドはそこまで説明し、ところで、とギデオンを見上げる。

「今回はどんな被害だ」
「あぁ、前の2件と同じで焼死体だぜ。全身丸焦げ。遺体はもう検死に出されてる」
「そうか…現場を見せてくれ」
「どうぞご自由に」

 ギデオンは一歩下がり道を開けた。


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