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授業が終わり外に出た途端、どしゃ降りの雨が地面を打つ。そういえば、夕方頃からにわか雨が降ると天気予報士が言っていたような言っていなかったような。
隣に立つ花宮くんはというと、すでにこうなる事を予想していただろう涼しい表情で鞄の中を手探っている。やはりその手には小さな折り畳み傘が握られていた。

「やっぱり!」
「やっぱり名前は忘れたんだ。」

ぱんと小気味良く鳴った私の手拍子も虚しく、目の前でにっこりと笑う花宮くんは爽やかに傘を広げてみせる。

「…花宮くん、先帰っていいよ?当分は止みそうにないし。」

試験期間で部活が休みという事もあり、普段は忙しい花宮くんとの貴重な帰宅時間が泡ではなく雨に消えるだなんて。いやいや、傘を忘れた自分の自業自得なんですが。内心はしょんぼりしながらも、何ともない体を装って雨空を見上げてみる。やはり止みそうにない。隣で同じように雨空を眺めていた花宮くんが、不意に前方へと視線を戻し歩を進めた。…あ、ちょっと寂しいかも。
あっという間に花宮くんの傘を濡らしていく雨の中、花宮くんの背中をじっと見つめてみる。ふとこちらを振り返る花宮くんに小さく手を振った。すると花宮くんはやっぱり手を振り返したりなんかしなかったけれど、その代わりに突き出された傘は誰もいない地面をただ覆う。その間にも雨に晒されている花宮くんはしとしとと雨に濡れていくので、私は慌てて鞄を肩に掛けて外へと駆け出す。

「何やってんの?濡れてるじゃん!」
「あー、濡れる濡れる。さっさと来いよ。」
「も、もしかして…これって相合い傘じゃ」
「無駄口叩いてねえで歩け。」

二人分も無い傘の面積はほぼ私の頭上に掲げられて、花宮くんの肩はびしょ濡れだ。傘を持つ花宮くんの手を押し退けると、無言でまた押し返される。そんな無謀な攻防を続けて数分、不意に花宮くんがくしゃみをした。

「身体冷えちゃったんだよ。もう…だから言ったのに。」

花宮くんの濡れた前髪を触れようと伸ばした手は、すんでのところで大きな手に掴まれる。

「お前の部屋であったまるからいいだろ。」

ああ、本当に仕方無いなと絆されていく心地良さに濡れていく。悪戯に細められる瞳を横目に、私は鞄の中から自宅の鍵を取り出した。
何だっけ、この感覚。懐かしいようなくすぐったいような。雨の日にずぶ濡れの猫を拾ったような。勉強もちゃんとするから、だからごめんね。小さな子供のように、ちょっぴり後ろめたい秘密を後ろ手に隠しながらがちゃりと鍵穴に鍵を差し込む。そんな雨の日の事。


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