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顔を逸らすと髪を掴まれた。声を我慢すると鼻で笑われた。ろくに濡れても慣らしてもいない穴に花宮くんのものが捻じ込まれる。
痛いと訴えれば「処女でもねえのに」と億劫がられ、締まりが悪いとその処女を求められ。私の処女を無くしたのは花宮くんだったと思うのだけど、当の本人にとってそんな事はどうでもいいようで。あんなに怖くて苦しくて悔しくて情けない私の気持ちや感情やその一日ごと、彼はゴミを丸めるみたいに容易く捨ててしまえるのだ。花宮くんにとって私は、玩具なんだと思う。玩具はただ弄ばれるために存在すればいい。
理解していてもどうにもならない事もどうも出来ない事もあるし、私はただ黙って揺さぶられていればいい。彼の機嫌さえ損ねないように手足をばたつかせていれば、いつかは飽きて本当に捨てられる日が来るのだから。そう理解しているつもりだったのだけど。
私はやっぱり玩具なんかではなくて、ただの人間だったのだ。花宮くんに引っかかれた傷を撫でる手は泣きたくなるくらいに温かくて、手の繋ぎ方を思い出した。

「花宮、くん。」
「……っは。…お前、なんだかんだ言って締め付けてんじゃん。」
「花宮くん、聞いて。」
「…んだよ、うるせえな。」
「好きな人ができた。」
「はあ?」

揺さぶられてもこぼれるのは乱れた呼吸音だけで、花宮くんはつまらなそうに私を見下ろす。

「だから、こういうのはもうやめよう?」

何が気に入らなかったのか。もしくは全てが気に入らなかったのか、花宮くんはすぐに手を上げた。ばしんと肌を打つ音で言い終わらない内に私の声は掻き消されてしまう。

「なんで?花宮くん、彼女いるのに。なんで私とこんなこと、」
「こんなヒデェこと、大事な彼女にできるか?できねえだろ、フツー。」

花宮くんの言葉がぐさりと刺さって、息が出来ない。彼女は大事なんだって。大事だから、私にやってるような事は出来るわけがないんだって。そんなの知ってるよ。知ってたよ。

「…なあ、名前。お前なんか勘違いしてんだろ。セックスがしたいだけなら、他にテキトーな女引っかけてるよ。それでもやっぱり、他の女じゃダメなんだ。お前じゃなきゃ、ダメなんだよ。」

耳元でそっとそっと、今まで聞いた事のない優しい声で名前を囁かれる。
ああ、花宮くんの彼女はいつもいつもこんな風に愛されてるんだ。愛してもらえるんだなとどこかぼんやり考えていると、加減も知らない力で前髪を鷲掴んで引っ張り上げられた。

「名前のきったねえ泣き顔が、何より大好きだからさ。」

涙で視界が歪んだのか、それとも花宮くんの笑顔が歪んでいるのか。もうどうだっていい。どうにでもなってしまえばいい。


title/舌


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